第27話 木星宙域決戦前
地球連合軍は木星の制圧を計画する。
五十六は作戦会議の為に地球へと出頭していた。
彼女の前には書類の山が出来ている。
「全戦力の3分の1を投じる大作戦か。転んだら終わりだな」
五十六は資料を眺めつつ、自らの役割を確認する。
劣勢な地球連邦軍の一大反攻作戦。
五十六からすれば、これがミッドウェーのようにも思えてならなかった。
確かに、ここ数か月においては五十六の活躍もあり、地球側は僅かながら、有利になっていた。だが、それもあくまでも僅かである。全体的には劣勢のままであった。
地球連邦軍の唯一の利である人的資源も最近は兵役拒否が増えて、兵力が減りつつあった。更には経済の悪化もあり、戦費の調達もままならなかった。これらを打破する為にこの一大作戦が画策された。
あまりにも打算的で政治的な思惑が透けて見えて、五十六は辟易した。
正直、この作戦が失敗して、潔く敗北した方が良いのではと思うが、だが、それに伴う被害は甚大であり、尚且つ、このような大敗を喫しての交渉は圧倒的に不利となり、これまでの圧政による恨みを持つ相手側が冗長するのは明らか。それはそれで禍根を残すこととなるのは必須であり、あまり負けられないと五十六は考えた。
その為、五十六はこのような作戦においても自分はそれなりに勝ちを得られるように動くしかないと考えていた。
五十六に与えられるのは小型艦艇母艦4隻、巡洋艦15隻、駆逐艦56隻、支援艦81隻である。地球側においてもかなり大規模な艦隊であった。この事から五十六に寄せられる期待は大きいと考えるが、主軸はあくまでも別であった。
五十六が築いた小型有人艦艇による戦術も一定の評価は得られたが、それを使いこなす将校はまだ、地球側には僅かであり、あくまでも戦闘艦艇による艦隊決戦が主な戦術であると主張する指揮官は多かった。
その為、主軸となる艦隊の多くは戦艦を多く擁する。中にはミズーリ級と呼ばれる巨大戦艦までも用意された。ミズーリ級は大きさも通常の戦艦の1.5倍相当に当たり、保有弾薬数は倍近い。ジェネレーターも多く配備され、イオンエンジンだけでも倍近い数が装備され、通常航行においても圧倒的な加速力を有していた。
「俺の役目はあくまでも支援。主軸では無い以上、どう動こうと勝手ではあるが、あまり全体から離れるとまずいよな」
五十六は作戦要綱を眺めつつ、全体の動きを確認する。
ミズーリ級を要する第一艦隊及び第二艦隊が木星への直接攻撃を行う。これらはほぼ、最短距離を進み、敵艦隊と正面からやり合う形になる。火力を一点に集中させての突破を狙っている。巡洋艦主体の第4から第7艦隊までは敵の分散を狙う形で遊撃を行う。そして、五十六の第8艦隊と第9、第10艦隊は後方から彼等を支援しつつ、必要があれば、前に出る形となる。
つまり、戦局によっては五十六の出番は無いのである。
これだけの艦隊が動くとなれば、敵が察しないわけが無い。
情報秘匿は厳にすると言っても、完全に秘匿する事は不可能である。
当然ながら、敵のスパイは入り込んでいるわけだし、マスコミだって嗅ぎ付ける事が出来る情報ならば、相手が知り得ないわけがない。
この動きを正確に分析されれば、分が悪くなるだけだ。
そんな事はさすがに大本営も解っているわけで。
陽動の為に作戦に参加しない艦隊や部隊が動き回る。
こうすることで大艦隊の狙いを定まらせないのだ。
無論、その為に作戦に参加する艦隊も敢えて、遠回りになるような航路を選ぶ。
五十六の艦隊はまさにそれで、敵をけん制しつつ、自らが主艦隊のような振舞を見せ付けつつ、敵を水星軌道上スペースコロニー群方面に釘付けにする役目がある。
これも厄介な任務であった。
木星軌道上スペースコロニー群方面に配置された敵艦隊は後方部隊とは言え、即座に木星への支援へと向かえるように整えられた艦隊である。まともにやり合えば、五十六の艦隊にも被害が出るのは必至であった。
だが、これらを戦区に近付けさせない事も重要な事であった。
五十六は現在、確認されている敵コロニー防衛隊の戦力を確認する。
巡洋艦5、駆逐艦35、支援艦54
中規模程度の艦隊戦力である。即応力という点では申し分ない。
戦力的に負ける要素はまったく無いが、敵が木星の戦闘に気付き、突破を狙ってくれば、相当な戦闘になる。そこで損害を増やせば、五十六の艦隊が主戦場へと向かうのは困難になるだろう。そうなれば、五十六の出番は本当に無くなってしまう。
「なるべくなら戦闘は避けたいが・・・こいつらを木星に近付けるわけにいかんしな・・・ならば・・・コロニーに釘付けにするしかないか」
五十六は厭らしい笑みを浮かべて、作戦の立案に掛かった。
太平洋戦争から宇宙戦争に転生しちゃった提督 三八式物書機 @Mpochi
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