第25話 第一分隊
ヤマモト隷下の第一分隊は探知された敵艦隊の動きを監視した。
両者共、互いを察知している為、互いを探り合う事に終始する。
互いに発する電波は最小限に抑えられ、なるべく、相手の動きを監視する。
敵の目標はあくまでも偵察。戦闘が目的では無い。
第一分隊の艦隊指揮官である旗艦、軽巡きその艦長は冷静に相手を見据えていた。
艦橋内のオペレーター達も全てのセンサー類から得られる情報の精査に勤しんでいる。情報はAIに掛けられ、敵の予測などが行われる。
きそ艦長は敵艦隊がこれ以上、接近はしないと判断した。そして、事実、彼等は一定の距離を維持しつつ、こちらの監視を行っているようだった。
敵が欲しい情報が何なのか。それを分析するのも重要な事であった。
「敵の偵察がブラフだとすれば、別の軍事行動が行われている可能性は?」
きそ艦長がAIにそう尋ねるが、AIが弾き出した幾つのか回答は彼を満足させるに至らなかった。
「情報が圧倒的に足りない。奴等はこの無駄な偵察任務をなぜ続ている?」
きそ艦長は敵の行動を不審がりながらも、相手が一向に去らない為、ここに居座るしか無かった。
旗艦きそに縦列で並ぶ駆逐艦達も同様であった。きそに比べて、能力の低い彼等はただ、非常時に備えて、戦闘準備を欠かさない事だけであった。
接敵から6時間が経った。普通ならば、とっくの昔に敵が撤退していてもおかしくなかった。だが、敵艦隊は一定の距離を維持しつつ、複数の電波を発したり、偵察用ドローンを発進したりさせていた。
ドローンのような無人機の接近はそれ自体を乗っ取る。または電子的な破壊、妨害の手段によって、無効化させる事は容易な為、ドローンに接近されたぐらいで驚く者は誰も居ない。その為、すでにドローンによる強行的な索敵もすでに無意味な手段と化していた。だが、それを敢えて繰り返す事に何の意味があるのかときそ艦長は考えた。
殿を務める駆逐艦さざなみは後方に突如として、ガスが発生した事を光学センサーにて確認する。それは明らかに人工的であり、敵である可能性が高かった。
「後方にガス発生。距離5000キロ」
宇宙における5000キロは感覚的には地上における300キロ程度である。つまり、敵の射程圏内であり、かなり接近された事を意味する。超高速ミサイルであれば、防御システムを抜けて、船体の周囲に張られた電磁的防御を突破して、船体に損傷を与える距離である。
そして、事実、ガスを抜けて、数発のミサイルがさざなみに対して発射された。
探知不能の敵から接近してのミサイル攻撃を受ける。
発射されたミサイルに対して、さざなみの防空システムは反応を後らされた。
レーダーがミサイルを探知しなかったのだ。
ステルス性能がミサイルなどに付与されているのは当然だが、探知時間が相当にあれば、完全にレーダーを誤魔化せるステルス技術など存在はしない為、探知が可能なのだ。しかしながら、探知距離が無かった為、電波によるレーダーシステムはミサイルを捉えなかった。周囲を見張る光学センサーだけがAIによって、ミサイルを自動的に捉えた。だが、それさえ、安定はしない。ミサイルに光学迷彩が施されているためだ。ミサイルは時折、宇宙空間の中に溶け込む。それを画像処理にして、AIは何とか捉えようとする。
光学センサーによって捉えられたミサイルに対して、防空用の小型レーザー砲座が唸る。
プラズマを発しながらレーザー光線がミサイルに照射される。だが、それはミサイル表面に施された対レーザー光線処理が拡散させ、威力を半減させる。
結果、ミサイルは破壊されず、さざなみの後方に着弾する。
爆発が起きて、さざなみの船体は大きく揺さぶられる。
さざなみ艦長は被害状況を部下に確認させる。だが、次々とミサイルは着弾してゆき、やがて、主機が爆発を起こした。船体の半分が食い千切られたように吹き飛び、船体は不気味な回転をしながら、制御不能状態で彷徨い出す。
「さざなみ撃破されました。総員退艦を始めてます」
きそ艦長はオペレーターの声を聴きながら、突如の攻撃に対して、反撃を命じていた。
さざなみが撃破され、殿となった駆逐艦かげろうは即座に後方のガスに対して、小型ミサイルを数十発、放つ。本来、対ミサイル防御用ではあるが、至近距離ならば、充分に役立つ物であった。
ガスの中にミサイルが次々と飛び込み、爆発が起きる。
ガスは電波などを拡散させる効果がある物質があるらしく、ガスの中の状況は不明であった。だが、ミサイルは無線誘導ではなく、搭載されたAIによる自動誘導の為、ガス内においても動作に問題は無かった。
状況は不明ながら、突如、現れた事で相手が次元潜水艦である可能性を考慮した。だが、重力波などに異常が無い事から、次元潜水艦が出現したとは考えにくいと戦術AIが回答を出す。
きそ艦長はこれが敵の本当の行動だと判断した。状況は不明ながら、防御に徹しねば、全滅させられると考えた。
「さざなみの救出を終えるまで彼等を援護。救出完了後に即座に撤退をする」
きそ艦長はすでに駆逐艦一隻を失った事で、敵戦力と大きく戦力の差が生まれたと感じた。このままでは敵艦隊との戦闘は明らかに不利になると感じた。であれば、一度、撤退して、後方に応援を呼ぶ事が先決だと考えた。
さざなみから脱出したポッドの回収をする駆逐艦はるつきはガスから飛び出る艦影を確認した。それはあまりに小さく、ドローンだと勘違いするレベルであり、事実、はるつきの戦術AIはそれを無人機だと勘違いして、自動的にハッキングとジャミングを行った。
通常ならば、何かしらの影響を受けて、行動を停止するはずだったが、あまりに小さな艦影はレーダーが消えたのだ。光学センサーもその艦影を捉える事が出来なかった。
消えた。はるつきの艦橋では誰もがそう思った。
次の瞬間、はるつきの船体も大きく揺さぶられる。
船体のあちこちにミサイルが撃ち込まれたのだ。
強力なミサイルによる攻撃は電磁波バリアも装甲も破り、船内にて、激しい爆発を起こした。はるつきは三発のミサイルによって、爆散した。
きそ艦長は小型の艦艇の急接近を許したのだと気付いた。無人機やミサイルでは無い。明らかに有人であり、こちらからのジャミングは一切、通じない相手だ。
それは油断してイオンエンジンのみで移動していた鈍足な艦隊に圧倒的な速度で接近、攻撃を行った。
残された3隻の駆逐艦にもミサイルが襲い掛かり、中破と大破となった。
きそにもミサイルが飛び込み、重度の損傷を受けた。
きそ艦長は被害報告を受けつつ、防空指揮を執る。
このままだと、敵艦隊が隙を見て、攻撃を仕掛けてくる可能性があった。
なるべく、早く、この場から逃げねばならない。
五十六が指揮する艦隊司令部へと繋がる頃には第一分隊の損耗率は7割に達していた。
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