第24話 僅かな休息

 戦争が長く続く状況を望んでいる者は少ない。

 当然である。

 人道的云々よりも戦争は消耗しか無いからだ。

 生産的では無いし、多くの人々は戦費捻出のために大きな負担を強いられている。

 つまり、戦争が終わって欲しいと願う人が双方において圧倒的である。

 それでも戦争が終わらないのには理由がある。

 それは落とし所だ。

 これだけ長く続いた戦争で相手よりも悪い条件で戦争が終わるわけにはいかない。

 戦争が終わる事を望む者でもその理屈は当然だと考えていた。

 負ければ、大きな債務が発生する。そのツケを払いたくないだ。

 だから、勝つ為に戦い続ける。

 誰も望まぬ戦争が続く最大の理由であった。

 それは双方の政治家も同様であった。

 それでも何とか落としどころを模索する為に幾度も交渉の席が持たれる。

 何度となく顔を合わせて来た代表者同士。

 舌戦に次ぐ舌戦にすでに言う事も枯れた。

 だが、それでも彼等は今日も交渉の為に僅か3メートルの距離で向かい合う。

 地球側の代表者であるマーカス外務大臣が最初に話し掛ける。

 「我々としては君達が無条件降伏をしてくれれば、責任などを追及するつもりはない。むしろ、そちらの待遇もそれなりに用意している」

 その言葉に宇宙側の代表者であるムロ代表団団長が返す。

 「再び地球側の支配下に置かれれば、また、圧政が敷かれるに決まっている」

 何度も繰り返した言葉だ。だが、その過去こそが彼等を意固地にさせている原因でもある。それは地球側も理解していた。

 「同じような過ちは繰り返さない。宇宙側の地位についても考慮する」

 「騙されない。我々としては地球こそが無条件降伏して、我等の支配下に置かれるべきだ。すでに地球よりも我々の方が多くの資源を獲得している。それらを地球側に渡すつもりはない」

 「何を言っている。その資源だって、殆どが手付かずだろう?」

 「それはこの忌々しい戦争で消費をしているからだ」

 解決の糸口はいつも見付からない。

 ただ、互いに罵り合うだけの会議だった。

 無論、これは両国民には非公表なので、誰がもこのようなバカげた会議が続いているとは知らない。

 

 ニュースでは停戦会議が不調に終わった事を伝えている。

 五十六は退屈そうにそれを聞いていた。

 「くだらない茶番をよく続ける」

 五十六は解っていた。戦争を終わらせる事が簡単では無い事を。

 かつての太平洋戦争においても日本が無策にもあの大戦に挑んだわけではなかった。

 中国侵攻に関しては国民党の蒋介石との話はついており、中国国内の海外勢力と共産党の一掃が目的だったわけだし、アメリカとの開戦も最初に大きな損害を与えて、有利に講和に持ち込む予定だった。

 全ては捕らぬ狸の皮算用であった。

 自分が戦死した後の話は色々な資料を漁り、勉強をしたが、日本国が独立国として生き残ったのは運が良かったの一言に尽きた。後の冷戦構造の最初の歪が日独伊の独立を許したとも言える。

 それではこの戦争はどうだろうか。

 第二次世界大戦に比べて、あまりに単純な構造。

 こうなると実は外交的解決は難しい。複雑な力関係が存在した方が交渉はし易くなるのだ。

 そして、長年続いた結果、双方に禍根が出来てしまっている。

 多くの戦死者や被害者の事を考えれば、簡単には手打ちに出来ない事情が双方にあるのだ。

 「言葉だけで講和を結ぶには難しいわな。どちらかが・・・負けないとな」

 五十六は珈琲を片手にニュースを眺めた。

 地球連邦は一枚岩ではない。

 元々、宇宙開拓は国家レベルで進められていた経緯があり、連邦政府の中には宇宙側と密接な関係にある国家も多い。

 その多くは比較的早い段階から宇宙開発を行っていた国だ。

 宇宙側の支配階層の半分以上はアメリカ、日本から移住した者の末裔である。

 そして、現在の経済的な繋がりもアメリカ、日本が主であった。

 つまり、宇宙との関係において、何の利得も得られない国々の不満が戦争を継続させているに過ぎない。だからといって、一度得た利権を手放すバカも居ないわけで。

 五十六は立場上、左程、政治に関わるつもりはない。

 だが、地球側では混乱した経済のせいで餓死者が多く出ている。

 アメリカや日本、先進国と言われる欧州などは安泰だが、それは未だに発展途上国である国々の犠牲の上に成り立っているわけだ。

 しかしながら、それも以前においては宇宙がその代わりだった事を考えれば、資本主義の限界とも言える。

 「まぁ・・・今更、共産主義なんて口が裂けても言えないがね」

 五十六は軽く笑いながらニュースを閉じた。

 そこに部下のサラ少尉がやって来る。

 「報告します。現在、強攻偵察任務中の第1分隊が接敵しました。確認された敵戦力は戦艦2、巡洋艦2、駆逐艦7、貨物船のような艦船が1です」

 「貨物船のような艦船?」

 「詳細は不明。光学情報からも武装などを確認されておりません」

 「貨物船・・・輸送の護衛にしては大袈裟だな。それに奴等の輸送航路じゃない」

 五十六は少し考え込む。だが、すぐに理解した。

 「そいつはぁ・・・空母だな」

 その言葉にサラの表情は青くなる。

 「敵も空母を手にしたと?」

 「手にしたも何も、元々ある技術だ。廃れて、失われただけで、有効だと思えば、すぐにでも手に出来るよ。問題は運用が出来るかどうかだ」

 「な、なるほど・・・見よう見マネでは我々のようにはいきませんからね」

 「その通りだ。未だに味方にも空母は疑われているからね」

 「まぁ・・・人道的では無いと強く主張する方も多いですから」

 「戦争をやっていて、人道もクソも無いと思うが・・・」

 五十六は苦笑する。だが、相手も空母を持ったとすれば、戦争はやり辛くなる思った。

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