第23話 情報戦

 情報は重要だと言う認識は強い。

 この事は何も現代においてだからと言うわけじゃない。

 古代より、戦においても政治においても情報は重宝された。

 情報を手にした者が勝利を収めたのだ。

 山本五十六の時代においてもそれは誰もが解っている事だった。

 だが、悲しいかな、人は自分の希望の為に現実を歪曲させる事もある。

 それが敗北への道の始まりなのだ。


 この世界においても様々な情報が収集され、解析される。

 どんな些細な事にも意味がある。宇宙の片隅の一個人の囁きでさえ、世界の命運を分ける程の情報となるとさえ言われる。その為、戦略として、全ての情報ネットワークは監視されるし、人の噂話でさえ、取集される。

 その上において、重要である政治、行政、軍事の情報ネットワークなどは秘匿されているとは言っても、傍受される可能性など無数にある。

 ビッグデータの精査は当たり前のように行われる。

 だから、情報は操られる。

 欺瞞・・・改ざん・・・諜報・・・。

 それが情報戦だ。

 どの情報が信じられて、どの情報が嘘かを見抜くか。

 それは人工知能ですら、困難なレベルとなっていた。

 結果的に人間の決断力が求められるのだった。

 

 五十六は来客に対応していた。

 二人の士官。

 軍の情報部に所属しているそうだ。

 訪れた理由は五十六に話を聞く為。

 五十六は年齢に似合わぬ感じに鷹揚に彼等に応じる。

 「それで・・・私に聞きたい事は何かね?」

 少女とは思えぬ雰囲気に圧倒される二人の士官。彼等は今の五十六からすれば10歳は上の連中なのだが、完全に気圧されている。当然だろう。見た目は少女でも中身は日本海軍を掌握した提督のままなのだから。

 「まぁ・・・貴官の働きが素晴らしいのでね。少しお話を」

 人を煽ててはいるが、どこか疑いの目をしている。五十六は彼らが自分を裏切り者じゃないかと疑っているのだろうと思った。

 情報部の人間なら当然の疑いだ。ポッ出の士官が活躍するには裏があると思うだろう。それが最悪、敵と繋がっている可能性は捨てられない。だから確認に来たって事だ。

 「しかし・・・情報部も暇みたいだな。こんな小娘と話がしたいなんて」

 五十六は笑いながらビールを口にする。それを見て、士官たちは顔を見合わせる。

 「あの・・・未成年の飲酒はちょっと・・・」

 士官の一人に言われて、不意に気付く。自分が未成年だと。

 「あぁ・・・そうだった。悪いな。あんた達の為に用意したんだった」

 そう五十六に言われて士官たちは「自分達は飲まないので」と断った。

 そして、彼等は切り出した。

 「色々、君の事は調べさせて貰った。確かに士官学校時代から優秀だったが・・・ここにきて、人が変わったように戦果を挙げ、尚且つ、空母の運用。それに関わる論文の提出。傑出した才能と言わざるえない。我々の調べでは君は山本五十六の子孫だが・・・それが関係しているのか?」

 それを聞いた時、五十六はお笑いをした。

 「五十六の子孫か・・・確かに。私は山本五十六の再来だよ」

 「それは大きく出たね。だが、ここ最近の君はそう呼ばざる得ない」

 「ふん・・・どうせ、私の身辺を調べに来たんだろう?」

 「はっきり言われると答え辛いね。まぁ、基本的には君は完全な白だとは解っている。確認作業と・・・どんな娘なのかと言う興味だよ」

 「あまり仕事に私心を入れるのは感心しないな。大佐」

 「そう言うな。だが、噂通りだ。確かに提督の風格だよ」

 「誰から聞いたのやら・・・まぁ、提督と呼ばれるのは悪い気持ちはしない。だが、その肩書を背負うには相当の苦労を強いられるがね」

 「知ってるような口ぶりだね。まぁ、君の事は解った」

 士官はこれで話を終わらせようとした。だが、五十六は逆に質問をした。

 「一方的に話を切るのは感心しないな。私から質問させて貰うよ」

 「何かな?」

 「私も色々と調べているが・・・解らぬ事も多い。敵の資源は我が陣営の何倍程度になると思う?」

 「なるほど・・・その評価は実際には難しい。惑星の開発がどの程度、進んでいるかによるが・・・少なく見積もっても13倍程度になると思われる」

 「13倍・・・それらの資源を遣えば、単純に軍事力も5倍以上になると思うが?」

 「そうだな。だが、人的資源が足りない。奴等は地球のように何もしなくても人が住める環境を持たない。限られた空間を利用しているからな」

 「なるほど・・・こちらには資源が無く、奴等には人が居ないか・・・痛し痒しで・・・拮抗しているわけか。この歪な戦争の根本的な原因がようやく理解が出来たよ。質問はそれだけだ」

 「ははは。そうか。それは良かった。まぁ、これからも活躍してくれ」

 士官たちはそう言い残して、去って行った。

 残された五十六は先程、口を付けたビールを一気に飲み干す。

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