第22話 宇宙統治機構の憂鬱

 地球連邦軍との長い戦争を続ける宇宙統治機構。

 戦争に利があるわけじゃない。

 国民の中には和平を望む声も高まりつつある。

 そもそも、人類が生存不可能だと言われた宇宙が彼等の生活の基盤である。

 多くの宇宙コロニーが彼等の生活版図であるわけだが、限られた空間は膨らむ国民の数に対して、充分では無く、特に食糧生産においては問題が多くあった。

 特に空間使用率の大きい食肉に関しては供給量が圧倒的に少なく、国民の多くは代用食肉しか食べられないのが現実だった。

 だが、それ故に地球で贅沢な暮らしをしている者達への怒りも大きかった。無論、伝えられる情報が全て、正しいとは限らない。地球でも飢餓に苦しんでいるという情報は流れている。だが、地球連邦政府や富裕層の暮らしはそれとはまったく別で、彼等の多くは宇宙統治機構では考えられないぐらいに贅沢な暮らしであった。

 宇宙統治機構は革命の名手である議長のモウ=エンショウでさえ、日々、最小限の食事を口にするだけの生活をしている。

 宇宙開拓において、確かに多くの資源を手にする事は出来る。だが、鉱物資源やガスを人が食べる事は出来ないのだ。限られた生活空間から得られる食料は大きく限られているにも関わらず、人口は着実に増えていた。スペースコロニーの増産にしてもあれだけ巨大な物が簡単に作れるわけも無かった。それにスペースコロニーの設置する空間も様々な条件的な制限があり、どこにでもとはいかないのである。

 モウ議長は建造中の宇宙戦闘艦を視察していた。

 「木星における戦闘で我が軍が押され始めているらしいが」

 モウが隣に立つコウ=レイ大将に尋ねると彼は少し狼狽える。

 「はぁ・・・確かに、最近、奴等は有人型の小型戦闘兵器を投じて参りまして・・・命を捨てるような戦い方にいささか・・・」

 「昔の言葉で言う『特攻』かね?」

 「似たようなものかと・・・ビームすら防げない小型機に人を乗せて戦闘艦に攻撃を仕掛けるなど・・・敵の指揮官は悪魔ですよ」

 「なるほど・・・だが、それで我が軍は敗退をしているのだよね?」

 「はぁ・・・非人道的兵器です。敵に抗議を考えております」

 「抗議って・・・敵対している相手にかい?」

 モウは呆れたように尋ねるとコウは恥ずかしそうに口を慎む。

 「まぁ・・・人工知能をなるべく頼らないと言っても、戦略・戦術面において、頼り切っているからね。事前に入力されたデータに有人型小型戦闘機が無ければ、人工知能とは言え、対策が練れないってのは当然だな。相手はその辺をよく解っている。人も機械さえも考えない事をやってくる。それが非人道的だとしてもね」

 「はぁ・・・我等はどうすれば?」

 「どうすれば?それは君の仕事だろ?私は軍人じゃないよ」

 モウに言われてコウは再び黙る。

 圧倒的戦力によって、戦うならば、こんな事にはならない。だが、宇宙統治機構軍も地球連邦軍も揃えられる戦力には限りがあるし、戦力の増強にだって、限りがある。一隻の宇宙戦闘艦を建造するのだって、時間も費用もただでは無いのだ。完全に自動で建造が出来るわけも無く、多くは人の力が必要となる。

 資源があれば無尽蔵に戦力の増強が出来るわけじゃない。特に太陽系の多くを制圧している宇宙統治機構は無駄に支配領域が広く、それらを全てカバーする為にはあまりにも多くの戦力が必要とされた。

 

 視察を終えたモウは議長邸宅へと向かう。

 街の様子は暗かった。元々、宇宙へと移民に出されたのは人口過剰であった中国を始め、アジア、アフリカ、南米などの貧民であったり、水位上昇で領地を失った東南アジアの人々であった。首都であるこのスペースコロニーでさえ、街の様子は貧民街に似ていた。まともに日々の食事さえ出来ない者も多く、強い警察力で抑えつけねば、犯罪率だって、半端じゃないのだ。

 教育制度さえ、浸透させる事が出来ぬ宇宙統治機構が地球連合を圧倒する事が出来ているのは単純に資源があるからに過ぎない。だが、それも徐々に盛り返されつつある。その原因は人的資源の限界だ。

 議長邸宅とは言うが、それほど大きな家では無い。だが、集合住宅が当たり前のスペースコロニーでは庭付きの家だけでも豪邸であった。彼の乗る車は邸宅の前に停車しようとしていた。その時、物陰から突如、人々が現れ、手にした自動小銃を撃ち始める。銃弾は車に当たるも、防弾仕様の為、貫通する事はなく、車は彼等を蹴散らすように加速する。

 モウは突然の事にも冷静であった。襲撃を受けたのは初めてではない。

 「邸宅の警備はどうなっている?」

 モウは助手席に座る秘書官に尋ねる。彼は慌てて、警察と連絡をしていた。

 「か、確認中です。しかし・・・多分、内部の犯行かと」

 「敢えて、警備を外されたか・・・こんな時に権力闘争か・・・くだらない。俺が死んでも状況は変わらないぞ」

 モウは呆れた顔をするが、内心は怒りに満ちていた。戦争が長引き、国民の間には厭戦気分が広がり、尚且つ、酷い困窮を全て、国家の責任だとして、民主化革命の機運が漂っているのだ。宇宙統治機構の民はかつて、地球政府から酷い扱いを受けていた歴史を忘れ掛けていると言われた。

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