第21話 無人兵器

 五十六は無人兵器について考えていた。

 五十六の時代、無人兵器など空想の産物でしか無かった。

 無論、有線、無線の技術はあり、遠隔操作もある程度は可能だったが、結果的にロケットに人を乗せて突撃させるなんて非道な兵器が生み出されるに至るわけだ。

 戦争において、戦死者が出るのは仕方がない事ではあるが、出ずに済むならそれが最良である。何も人が死ぬのが戦争では無い。目的を達する事が戦争の本意だ。

 無人兵器はその点において、誰もが欲する物だ。

 故にこの時代に至るまでに多くの無人兵器が戦場に投じられ、生身の将兵が戦場から姿を消した。

 こうなれば、戦争は将棋や囲碁をやっているような物だ。自動で動く兵器に指示を与える。勝ち負けが画面上で決まる。そうやって戦争が拡大した。だが、それで決する程、戦争は綺麗事では済まない。

 勝つためにあらゆる手段を模索する。それが戦争だ。

 持ち駒の優劣で戦争は決しなくなる。無人兵器など消耗品みたいなもんだからだ。

 戦略目標ですら、消耗品と化す。そうなれば、結果的に攻撃目標は人命となる。

 市民に対する無差別攻撃は非人道的である。しかしながら、戦争を決するのにそれが必要ならば、それも許されるのも戦争だ。

 結果的に無人兵器による戦争の末期は悲惨なものだった。敵味方の識別が困難になった人工知能が暴走をして、市民を虐殺をする事が相次ぐ事態になった。事態を収拾するまでに数億人の死者が出たと言われる。

 その為、人工知能には制限が設けられ、有人兵器が見直しされた。勿論、それまでに築かれた無人化技術は優秀であり、かつ、有用なので、最大限、活用がされる。だが、それを扱うのは人間でなくてはならない。人工知能と言えども、人間の意思を無視してはいけない。

 とても長い歴史の積み重ねの上で、現在、宇宙戦闘艦には人が乗っている。

 ミサイルも誘導式と言ってもかつてあったような人工知能搭載型では無い。もっと古典的なプログラミング式や熱源等のセンサー式である。完全自律型にして、一切の無線通信を搭載しないという手もあるが、そうなると誤射した場合の安全策が無くなる。

 しかしながら、相手にハッキングされる事を防げば、無人兵器はとても武器になる。例えば、自律型ロボットだ。かつては無人戦闘員として、人間大のロボットが投じられた時代もあった。彼等は戦車などが入れない場所にも突入して、敵を探り、倒した。無人兵器の最高の傑作だと言われた。それが自分達に向けられるまでは。

 どれだけ高度な人工知能であっても所詮は機械だ。人間が洗脳されるよりも簡単に書き換えられ、敵の物になる。現在では対無人兵器用ジャマ―など、対電子戦兵器が豊富に揃っている。無人兵器が戦場に無くなった今においてもそれらは念のため、稼働している。ある者が言った。それはお守りなのだと。

 五十六はこの捨てられた兵器に興味が湧いた。

 すでに対策が出来ているから、無用の長物。下手をすれば、自分達が危険だと言わせたそれをもうもう一度、活用してみてはどうかと。

 無論、そのためには安全対策などをしっかりとする必要がある。それらが現実にはどのような事をすべきはまだ、答えを持ち合わせない。

 だが、誰もが使えないと思っている物を用いる事こそ、相手を足元から掬える一手になると五十六は考えた。


 五十六からの提案を受けたのは日本国防衛省装備開発局だった。日本国内での兵器開発を主に受け持つ部署だが、本来、一士官の要請などは受け付けない。ただ、五十六は空母を復活させた事で兵器局においても話題の人物であった。その為、無碍に断る事はせず、若い技官の若松が対応に当たった。

 若松の専門は人工知能である。

 彼は五十六からの要請書を眺めて、一笑に伏した。とても現代人の考える事では無かったからだ。ちゃんとした教育を受けた人間なら、完全無人兵器によって、引き起こされた最悪の事態を知らないわけがなかった。それによって、世界から完全自動化された機械は一掃された事も。あるとすれば、用途を限られた物ぐらいである。

 「しかし・・・有人戦闘機の復活だけでも驚きなのに、今度は無人戦闘機ですか・・・正直、これは受け入れられない提案ですよ」

 若松に言われて、五十六は当然だと言う顔で「そうだろうな」と答える。

 「だが・・・使用場所を限定して、尚且つ、人工知能から切り離した形で起動と停止を命じる事が出来たら・・・有用な兵器になると思ないかね?」

 そう提案されて、若松も考える。

 「確かに・・・今、使われている完全自動の物はそうなっていますね。それで・・・設ける制限はどうなさいますか?」

 「簡単だ。敵の要塞や船に放り込んで、起動させて、敵を制圧する。作戦が終了すれば、停止するって感じだな」

 「ふむ・・・行動が制限が出来るなら・・・とりあえず、法律には触れませんね」

 「法律ぐらい解っている。完全自動の物が必要な制限無しに開発、製造が出来ない事ぐらいな」

 「ははは。それはすいません。軍人の方はその辺を考えてない方が多くて」

 「正直者だな。長生きせんぞ?」

 「若いのに年寄り臭い言い方をしますね?」

 「ふん・・・要求する仕様はそんな感じだが、他に良いアイデアがあれば、教えてくれ、気に入ったら採用してやる」

 「わかりました。とりあえず、考えさせてください」

 「やれるかどうかの答えは1週間だ。それ以上は待てないぞ」

 「わかりました。必ず返事をします」

 五十六は若松のはっきりした態度に満足したように席を立った。

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