第17話 日常の戦い

 五十六の思惑とは別に太陽系外への侵攻を目論む地球連邦軍は橋頭保の確保と戦力増強を図った。

 当然ながら、この動きは相手側も察知しており、敵は出っ張りと呼ぶこの宙域の奪取を最優先目標としていた。

 

 「第231レーダーサイトに敵影5を確認。哨戒隊を派遣します」

 レーダーは敵を発見する為には必要不可欠な設備だ。

 無論、宇宙船にも搭載されているが、レーダーはレーダー波と呼ばれる電磁波等を発して用いる事から、自分の位置も相手に教える事になる。その為、戦闘用の宇宙船においては通常航行以外ではレーダーを用いる事は制限される。敵味方を識別する敵味方信号も同様だ。つまり、宇宙戦闘艦の多くは電波を発しない光学機器等による目視航行がメインとなる。

 第二次世界大戦時の海戦に近い。

 戦闘中にレーダーを使う場合は敵をロックオンする為の照準用レーダーのみ。それとて、敵に察知されるのを嫌えば、用いない。ミサイルの多くも同じだ。その気になればミサイルにレーダーを搭載させ、自動誘導させる事も可能だが、レーダー照射に対する自動化された対空砲火は回避不可であり、無誘導よりも撃墜率が高い。しかし、無誘導のミサイルを命中させるために囮として混ぜて発射するのも基本的な戦術だった。

 つまり、軍用で敵をもっともよく探知する事が出来るのはこうしたレーダー網である。そして、敵が最優先に狙うのもレーダーだ。

 第231レーダーサイトはこの直後、通信を途絶える。勿論、無人であるので、人的被害は出ないが、レーダーサイトになると大型レーダーが設置されている為、破壊されると費用的にはかなりの損害になる事も悩みの種である。

 

 レーダーが察知した敵影を追い掛けて、偵察隊が進む。

 高機能の光学照準器が星が煌めく宇宙空間で敵を探る。

 だが、宇宙戦闘艦も対策として、表面を周囲に合わせる光学迷彩機能を装備している事が多い。無論、高度な画像解析によって、それを見破るわけだが、必ずしも敵を察知する事が出来るわけじゃない。そうなると、一か八かでレーダーを用いる事も検討されたりもする。

 偵察隊を組むのは3隻の駆逐艦である。

 旗艦フレッチャーは主砲を外し、天文台でも使われるような大型望遠鏡が装備されている。それは常に宇宙空間を覗き、そこから得られた画像を人工知能が分析を続ける。

 電子音が艦橋に鳴り響く。艦長はディスプレイに表示された画像を眺める。そこには宇宙空間の中を進む敵艦隊が浮き彫りにされていた。

 「敵を発見した。レーザー通信にて発報」

 艦長は敵の監視を続ける。彼等の目的は戦闘では無い。あくまでも敵の発見と監視である。レーダーが安易に使えないが故に古典的な戦い方へと回帰する。

 

 宇宙統治機構軍の強行偵察隊は駆逐艦のみで構成される水雷戦隊にて、敵地の強行偵察を行っていた。当然ながら、戦闘を含めた危険を前提に敵地近くへと赴き、情報収集する事が目的である。

 旗艦に搭乗する艦隊指揮官はすでに敵に位置が悟られている事を確信しつつ、艦隊を進ませた。

 「予定地に到着したら、情報収集の為、レーダーを作動させる。無駄なく、全ての記録を行え」

 人工知能に対して、命令を与える。すでに作戦に記された事柄ではあるが、改めて、命令を下すことは確認の為にも必要な事だと彼女は考えていた。

 常に監視の目である早期警戒システムが全方位を監視する。これは船体のあらゆる場所に設置された様々なセンサーにて、敵を発見するシステムだが、主に光学センサーによる画像解析となっている。それ以外は電波等を検知するセンサーとなる。

 艦同士の通信は敵に傍受される事を嫌い、有線によって、行われている。無論、短距離であればレーザー通信などもあるが、高度なセンサーならば、遠方によって行われるレーザー通信の光線を読み取り、解析する事も可能であった。つまり遠隔通信は何であっても傍受される危険からは避けて通れない。

 彼等がレーダーサイトの破壊をした後、30分も経たずに敵艦隊を察知した。

 すでに戦闘準備はしているが、情報収集が最優先のため、先に火蓋を切る事は無かった。相手の攻撃を受ける事を前提に防御を最優先にする。

 

 地球連邦軍側の偵察隊も敵の目的が偵察だと解っていても、安易に仕掛ける事が出来なかった。その原因は戦力の低下にあった。

 現状において、地球から遠く離れたこの宙域に補給、補充は遅れていた。

 亜空間移動・・・つまりワープも万能ではない。移動先の座標には大きな制限があり、且つ、移動先の座標の安全を事前に確保しておかねば、危険極まりないのだ。つまり、この宙域付近の安全は未だに確保されておらず、監視体制も不備があるため、かなりの距離を通常航行するしかないのである。

 

 偵察隊を率いるロット大尉は冷静に敵を監視した。

 「敵の目的は情報収集か・・・こちらの戦力などを探られると面倒だな」

 相手の意図を汲み取りながら、艦隊司令部との連絡を取り合う。即応性が必要な為、高度な暗号技術などを用いた無線通信にて行っている。しかしながら、これが敵に傍受され、暗号を解析されている可能性は否定が出来ず、極めて、短い通信を行うように心がけていた。

 艦隊司令部も敵の目的が強行偵察である事は間違いが無く、ここでこちらの戦力が不足している事が判明されれば、敵に攻め込まれる可能性も否定が出来ないと判断された。

 ロット大尉には敵の殲滅が命じられた。彼はそれに従い、電子戦準備を始める。

 敵が後方へと通信を行えないように電子妨害を行うためだが、これは味方にも影響が出る為、電子戦が始まると、味方との通信も困難になる。

 偵察隊は一気に加速を始める。同時に電子戦が始まった。

 

 宇宙統治機構の強行偵察隊は駆逐艦3隻の急速接近を確認した。同時に強い妨害電波が発せられ、付近の如何なる電波も阻害された。

 「敵はこちらの殲滅を狙っているようだ。数ではこちらの方が上回っている。敵を攻撃して、更に情報を集める」

 5隻の駆逐艦が動き出す。同時に敵が発する電波を察知して、向かって行くミサイルを次々と放った。

 

 偵察隊は敵のミサイルを確認する。

 「電波追尾型だ。妨害電波を止めろ。デコイを発射。こちらも仕掛ける主砲用意」

 電波を発しながら飛ぶデコイと呼ばれるミサイルが放たれ、高速で向かって来る敵のミサイルはそのデコイに向かっていった。

 その間に駆逐艦のレイルガンが唸る。

 高速で飛び出した砲弾。だが、同時に敵も同様に主砲を放っていた。

 飛び交う砲弾。

 着弾と同時に船体が大きく揺らぐ。駆逐艦が搭載する90ミリ砲弾程度では簡単に破壊される事は無いが、装甲表面に散布された粒子装甲が散る。

 

 両艦隊は接近しながらの撃ち合いとなる。砲弾とミサイルが放たれ、炸裂した。最大級に接近するとビーム砲まで用いられた。至近距離戦闘用ではあったが、ビームは粒子装甲に有利であった。

 激しい戦闘が17分程、続き、大きく艦隊を転進させた両艦隊は損害を出しつつ、そのまま、離れていく。

 

 偵察隊は数で劣っていたが、先制した事が有利になったか、一隻が中破したのみで大きな損傷を出さなかった。むしろ、戦果としては敵艦二隻を大破させた事が確認されている。追跡をも考えたが、これ以上の危険を冒す必要が無いとロットは判断して、撤退を始めた。

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