第15話 空母打撃艦隊
五十六は新たに結成された艦隊を司令官席のディスプレイで眺める。
「空母一隻とは言え、充分な打撃力だろう。とは言え、上層部は空母にはかなり懐疑的だ。まぁ、有人化については理解は得られたが・・・実際に戦果を挙げないと誰も納得はしないだろう。不幸にも人工知能による予測においてもあまり芳しくない結果が出ているようだがね」
五十六は参謀達を前にボヤく。居並ぶ参謀達も苦笑いを浮かべるしかなかった。彼等の中にも空母に対して懐疑的な気持ちがあるのは仕方がない事であった。しかしながら、五十六に対して面と向かって、その事を言える者は居ない。相手が年下の女性士官だと何処か小馬鹿にしていた者も居たが、実際に相対するとその気迫は経験豊かな将軍の発するものであった。
「まぁ・・・勝つために必要な事は圧倒的な戦力か・・・奇抜なアイデアだよ」
五十六は何かを悟ったように呟く。
その頃、太陽系外へと侵攻をしていた宇宙連合軍は各地で撃退されていた。原因は完全な物資不足である。広大な銀河を開拓している敵と太陽系の資源のみでは物量に差があった。
無論、開拓に莫大な資金や資材を投じなければならない敵も余裕があるわけじゃないだろうが、開拓が進めば、多くの資源を得る事が出来る上に生活版図も広がり、人口も増える。結果的には地球連合に勝ち目は無くなるのだ。
五十六はそのような事情を抱えている事も知っている為、地球連合軍が焦っているのも解っていた。しかしながら、例え、地球側が多くの植民地を太陽系外に確保がされたとしても、戦争が長引くだけで、結論は無いと思っていた。
「問題は落としどころだな。まぁ・・・太平洋のような愚を犯さなければいいが」
自分が死んだ後の歴史は資料から学んだ。
予想していたよりも遥かに悪い結末だった。
多くの兵と民が死んだ。
奇跡的に復興したとは言え、長い時間、民を困窮させた。
「所詮・・・戦争など愚かな事だ」
五十六は考える。今の自分の立場ではこの戦争を止める事など出来ない。もし、和平への道筋を作ろうと思うなら、やはり軍の上層部に食い込むしかない。
「だとすれば・・・勝ち続けるしかないか」
半ば諦めたように考えるを止めた。
彼女が目を開くと、海王星が目の前に見えた。
「敵のレーダーに発見された可能性は?」
人工知能に尋ねると即座に答えが返る。
「惑星周辺から照射されるレーダー波の反射率は安全値です」
「艦が巨大だからな。・・・予定通りの場所まで辿り着ければいい」
「了解。あと31分です」
「艦内に知らせろ。発進準備だ」
「了解」
艦内の彼方此方に設置された空中ディスプレイに指示が表示される。
それを見て、すでに準備を終えていたパイロット達が機体へと乗り込む。
パイロットの一人であるトーマスは緊張した。
「久しぶりの緊張だ。自分で敵艦を撃沈しに行くかと思ったら、興奮するぜ」
それを近接通信で仲間達が笑いながら聞いている。
「上陸舟艇を使わずに高速移動するっては怖いけど、何でも自由に出来るってのは気に入っているぜ」
黒人のマルティスも笑いながら言う。
「そうだな。こいつは最高にロックだ。なんなら敵の艦に取りついて、占拠してやってもいいぜ」
「ははは。そいつはいいや。片っ端から奪ってやろうぜ」
パイロット達は威勢がよく、勝手な事を言っている。それらは五十六の方でも聞こえていたが、彼女がそれに対して、何かを言う事は無かった。
そうこうしている間に発進時間がやって来る。
パイロットが乗り込んだ戦闘機は大型アームに捕まれ、射出口へと移動する。そこで電磁レイルカタパルトに接続され、高速で射出される。それを三つのカタパルトにて、1分で9機のペースで射出を繰り返す。
射出された戦闘機は編隊を組みつつ、勢いのまま、目標へと高速で飛び続ける。その速度は対艦ミサイルに匹敵する速度であり、宇宙空間を漂う塵などは表面に敷設された微粒子型の防御膜によって、弾かれる。
しかしながら、操縦するのは人工知能に支援されているもパイロット自身なので、半端じゃない加速に対して、何も無い宇宙空間と言えども相当なストレスになる。
だが、ここに集められた連中はそれを楽しむぐらいにおかしな連中だった。
「ひゃっほー!さいこーだぜ。宇宙船より早いぜ!」
トーマスは大騒ぎをする。
「うるせぇ。黙って操縦しろ。あと15分で到着するぞ」
35機の戦闘機は高速で飛び込む。ステルス性能があるとは言え、光学監視システムも併用する防空監視システムの前に発見されない事は不可能である。対空レーザーなどによって、弾幕が張られる。通常の対艦ミサイルだと、一定のアルゴリズムと脆弱な防御膜で破壊されてしまうが、戦闘機は人間のファジーな思考と感覚によって、動き回る為に敵に動きを捉え切れず、尚且つ、ミサイルに比べて、大きいジェネレーターによって発生している防御膜は対空レーザー程度は用意に防げるために彼等は易々と敵艦隊に肉薄した。
そして、機体に内蔵された対艦ミサイルを撃ち放つ。それらは簡単な誘導しか持たない超高速型ミサイルだが、充分に接近してでの発射なので、高い命中率にて、敵艦に突き刺さった。
貫通力の高いミサイルは敵艦に突き刺さると内部で弾頭を爆ぜ、大きな損害を発生させる。
五十六は光学機器による観測で戦果を確認する。
「地平線が無いとは楽なもんだ。遥か先の敵さえも望遠鏡で見えるんだからな」
五十六は笑いながらディスプレイを眺める。次々と爆発していく敵艦隊。一機の戦闘機が搭載する対艦ミサイルは駆逐艦などが発射する対艦ミサイルに比べると小さいが、貫通力は高く、敵の防御膜や装甲を貫いて、被害を与えるには適していた。
戦闘機隊が攻撃を終えて、戻り始める頃には敵艦隊の半数が燃えていた。空気の無い宇宙空間で燃えていたと言う表現は適切では無いが、穴だらけになり、機能の多くを消失した宇宙戦闘艦を表現したと五十六は思った。
僅か45分で第一陣は戻り、空母の両舷に設置されたアームに捕まれ、内部に収納される。そして、修理と補給が施される。この時点で損害は3割に及んだが、撃墜は無く、破損も軽微であり、32機が再度、攻撃へと発進可能であった。
五十六は3割を失った敵艦隊を眺めつつ、再度、戦闘機による攻撃を命じた。
敵艦隊は破損した僚艦の救出を行う為に防御陣形のまま、その場に留まっていた。迫りくる戦闘機編隊に対して、ミサイルとビームなどを発するが、的の小さい戦闘機相手では命中率は大きく下がり、それを掻い潜って、戦闘機部隊は再度、肉薄した。
二度目の襲撃で敵艦隊の半数以上が甚大な被害を受け、敵艦隊は破壊された艦の回収を諦め、撤退を開始した。
僅か2時間の戦闘で被害は戦闘機7機が中破した程度に留まり、人的被害は皆無であった。そして、戦果は戦艦級2隻、重巡級1隻、駆逐艦級7隻を撃沈した。これは空母による戦果としては131年ぶりの快挙であり、有人型小型戦闘機による戦果としては初であった。
五十六はこの戦果にも特に喜ぶ素振りは見せなかった。
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