第13話 五十六の計画

 五十六が部屋の中に入ると、そこには初老の女性が座っていた。階級章からして、彼女が総司令官である事は間違いが無い。

 「ヤマモトです」

 敬礼をしながら名乗る。

 「ご苦労。座れ」

 彼女は鷹揚な感じに応え、五十六を目の前の椅子に座らせる。

 「少佐に昇進、おめでとう」

 「ありがとうございます」

 「因みに・・・二階級特進の意味は解っているか?」

 「いえ」

 「簡単さ。君を更に大きな戦地に送り込む為だ」

 彼女はニヤリとしながら話す。だが、五十六はそれに微動だにしなかった。

 「肝が据わってるな」

 それに驚いたのは総司令官の方だった。

 「いえ・・・これだけ大掛かりな戦争をしているのですから・・・より厳しい戦場に送り込まれるのは当然かと」

 「当然か・・・最近は戦いを嫌がる者も多くてね」

 「戦争を好む者はどうかと思いますが?」

 「君、面白いね。あれだけの戦果を持ち帰っているのに、戦争は嫌いかね?」

 「嫌いかどうかより、意味があるかないかだけです」

 「意味か・・・まぁ、それはここで論じる事じゃないな。兎に角、君には新たな艦隊を指揮して貰う。そして、冥王星攻略を命じる」

 「冥王星ですか・・・しかしながら閣下。かなりの戦力があそこには集結しており、こちらも相当な戦力を投じねば、攻略は不可能かと」

 「その通りだ。そこで我々は新たな作戦を立案した。この作戦に従い、主力機動艦隊を新たに4個、結成する。その内の一個を君に任せる。

 「少佐の身分でそれは難しいのでは?」

 「案ずるな。隷下の艦船の艦長は皆、君より階級は低い。主力機動艦隊と言っても、機動重視の遊撃艦隊だからな」

 「なるほど・・・因みに艦隊編成は?」

 「ある程度、君の意見も取り入れよう」

 「ありがとうございます。実は試したい事がありまして・・・」

 「ほぉ・・・聞かせろ」

 五十六は温めておいた案を彼女に話した。

 「航空母艦の利用を具申したい」

 その言葉に総司令官は驚く。

 「今更、航空母艦か?」

 「えぇ、今更です」

 「だが・・・搭載機の問題など・・・解決されていないぞ?」

 「問題はありません。全てを有人化します」

 「有人化だと?」

 総司令官は増々、驚く。

 「えぇ・・・今の時代、人命を危険に晒す兵器はあまり使われないらしいですが、陸戦隊などはパワードスーツと呼ばれる兵器を用いていますし、その延長だと考えていただけば、よろしいかと」

 五十六は笑みを浮かべながら告げる。

 「しかしながら、艦隊決戦で個人兵器・・・ましてや小型機に人を乗せてなど・・・解っていると思うが、小型機のバリアなどは微々たる効果しかないぞ?ミサイルに人を乗せるような物だ。それならば、大型ミサイルを搭載して、運用した方がマシだと思うが」

 「えぇ、それも考えましたが、継続的に敵に効果的な損害を与えるには繰り返し使える小型戦闘機が必要なのです」

 総司令官は考え込んだ。

 「確かに・・・宇宙空間においては搭載できる物資に余裕はない。小型戦闘機を活用が出来れば、小型のミサイルを効果的に活用が出来るからな」

 「そうです。現在の宇宙空間における戦闘では中、長距離からのミサイル攻撃さえも効果は薄く。結果的に近接戦闘が主になっております。その為、艦隊の損害も多く、継続的な戦闘が難しくなっております。それを打開する為にも航空母艦の必要性を感じております」

 五十六が詰め寄るので、総司令官はたじろぐ。

 「わかった。試験的にそれを認めよう。すぐに使える艦には限りがあるが、好きなのを持っていけ」

 「ありがとうございます。有人化の改造に関しての予算は?」

 「解っている。あとで見積もりを用意しろ」

 五十六は総司令官の言質を確認すると笑顔で立ち上がる。

 「マミヤ総司令殿。ありがとうございます」

 敬礼をした五十六はすぐに部屋から出て行った。

 それを見送ったマミヤ総司令は嘆息しながら、通信端末で内線を繋げた。

 

 五十六は正式に命令書を受理した。それと同時に彼は地球へと向かっていた。

 高速宇宙船で1カ月後に彼は久しぶりの地球へと到着していた。

 「潮風が懐かしいな」

 五十六は呉に居た。

 前の人生から含めても久しぶりの呉だ。

 確かに街並みの多くは変わっていた。だが、それでもあまり変わらない風景もあった。

 「今の船ってのは変わってるな」

 軍港に停泊している軍艦はステルス性能を意識した平面的なデザインであった。

 「宇宙で戦争をしていても、こうして、海の上の軍艦ってのも要るのかね?」

 五十六は並ぶ軍艦を眺めながら呟く。背後から声が掛けられた。

 「ヤマモト少佐ですか?」

 そう声を掛けられ、五十六は振り返る。そこには眼鏡を掛けた野暮ったい男が居た。

 「あぁ、あんたが亜細亜技研の梶さんですか?」

 「はい。梶秀樹研究主任です」

 「有人型の小型戦闘機の研究をしていると?」

 「はい。周りからはロートル扱いですけど、パワードスーツなどにも技術転用が出来たので、何とか開発は続けさせて貰っています」

 「ふん。あまり期待されていない研究を続ける理由は何かあるのか?」

 「答えは簡単ですよ。どれだけ自動化が進んでも結果的に人間と機械はまったく別物であり、機械は良いも悪いも自我がありませんから」

 「人工知能の一部には自我が確認されたと言う報告もあるみたいだが?」

 「あくまでも疑似的にですよ・・・それに危険だと判断されて、現在は研究目的でしか作られてませんし」

 「機械が自我を持つのが危険か・・・面倒な時代だ」

 五十六は笑うだけだった。

 梶に連れられて、五十六は軍港近くの企業施設に入った。

 幾つかあるプラントの内、一番、古そうな場所に入る。

 梶はそこに並ぶ試作機を見せる。

 「宇宙空間でのみ使うことを前提にしていますから、ここでは機動の確認は出来ませんが、すでに宇宙空間に送ってある試作機は良好な結果を出していますよ」

 梶は自信満々にデータを五十六に見せる。

 「なるほど・・・さすがに防御力は弱いな。ミサイル用の防衛レーザーも防ぎ切れないか」

 「仕方がありません。バリアに回す出力は足りませんからねぇ」

 「それを回避の自動化で損耗率を下げるのか・・・面白いな」

 「はい。コントロールの多くを自動化させてますが、それらを人間の脳とダイレクトにやり取りする事で、手足のように動かす事が出来ます」

 「なるほど・・・それで・・・こいつは生産に入れるか?」

 「可能です。まぁ、製造ラインがあるわけじゃないので、大した数は揃えられませんが」

 「とりあえずは20機程度は欲しいな。2週間後までに」

 「難しい問題ですね。解りました。生産部門に問い合わせみますよ。ただ、パイロットはどうしますか?」

 「そうだな。艦長候補をと言うわけにはいかないか」

 五十六は少し考え込む。それを見た梶がアドバイスをする。

 「別に宇宙戦艦を動かす程の技能は要りませんよ。パワードスーツを動かせるぐらいで構いませんから、陸戦隊とか空挺隊から選抜すればよいかと」

 「なるほどな・・・ありがとう。これで俺の計画も進むよ」

 五十六は笑いながら、施設を後にした。

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