第12話 特進

 連邦総司令部では久しぶりの大戦果に湧いていた。

 海王星の攻略によって、地球連邦は太陽系にほぼ、完全に支配下においた事になる。ただし、敵は太陽系攻略の橋頭保とした冥王星に兵力を有しているので、これを打破しないといけなかった。

 「ヤマモトが功績を挙げたのか?」

 今回の作戦の分析が行われていた。

 人工知能の評価はヤマモトの判断を大きく評価をしている。

 「以前は凡庸な感じだったと思ったが・・・これだけの戦果を挙げておるなら、昇進させて、更に大きな艦隊を任せ、敵の太陽系からの駆逐作戦に向けても良いんじゃないか?」

 「なるほど・・・我々には人材も戦力も不足気味だ。彼女に冥王星攻略をして貰えたら、再編成の時間が稼げる。上手くやってくれれば、我々はこの長きに続く戦争に終止符を打って、人類統一が成せるかもしれんな」

 「そうだ。我々が太陽系に押し込まれている間にも敵は着実に太陽系外を開発している。人口も資力も超えられるのは時間の問題だ。ここでやらねばならない」

 「わかった。ではヤマモト君を一気に昇進させ、少佐にするのに異論は無いかね?」

 「異議なし」

 五十六は二階級特進を果たした。


 その頃、後方へと移動した五十六の艦隊は大型宇宙コロニー『ネオナゴヤ』に到着していた。これは名前の通り、日本政府によって、建造された宇宙コロニーであり、都市型と呼ばれ、多くの人々がここで生活をしている。

 コロニーの端には港湾施設があり、そこには軍港もあった。

 「ここで艦の修理は出来ないのかね?」

 五十六は軍港を管理する軍の技官に尋ねる。

 「すいません。ここは都市型宇宙コロニーなので、軍港とは言え、あまり設備を拡大させる事が出来ないのです」

 「解った。かなり船体にダメージを受けたからな」

 五十六が搭乗する軽巡洋艦『ながら』は海王星攻略に際して、船体には大小の損傷が見られた。無論、それらは航行には影響がないが、戦闘に対して、防御力を著しく低下させているので、これが原因で更なる大きな損傷に繋がる可能性が高かった。

 「ヤマモト中尉ですか?」

 技官と会話をしている五十六の元に港湾所属の軍職員がやって来た。

 「あぁ、そうだ」

 五十六は彼女に答える。

 「ただいま、総司令部から命令書が届きました」

 「命令書・・・思ったより早いな」

 「かなりの速達だったらしく。高速艇での直通便です」

 五十六は彼女から命令書を受け取った。

 「珍しいな。命令書を送るぐらいで」

 五十六は命令書の封を解く。この封はデジタル処理されおり、命令を受け取る権限のある者以外は受け取れないと同時に封を開いた瞬間、既読の信号が自動的に送信され、連合総司令部内の文書管理部にて、確認される。

 命令書の内容は五十六の二階級特進と新たな艦隊の司令官への着任であった。

 「参ったな。こんな一足飛びで・・・」

 五十六は苦笑いをしながら、自らの艦隊の艦長が集まる待機所に向かう。


 五十六の新たな艦隊への転任を彼等に報告をする。彼らはあまりの事に驚いていた。当然だろう。幾ら戦時下とは言え、こうも早い昇進と更に大きな艦隊の司令官に選任される事は五十六の年齢からしても稀である。

 「すまないが、君達は新たな艦隊司令の元で奮戦を頼む。もし、再び、一緒に戦えるなら、私には心強いよ」

 五十六はそう告げると、彼等と最後の飲み会を開いた。

 

 三日後。

 高速連絡艇から降りた五十六は木星軌道上にある第5宇宙軍基地である宇宙コロニーに到着した。

 このコロニーは比較的小型な物で、軍用として建造された物だ。多くは宇宙戦闘艦などを整備する為の施設である。

 五十六は早速、基地司令部に出頭する。

 「ヤマモトです」

 すぐに生体情報が確認され、本人確認がなされた。

 「ヤマモト少佐だと確認しました。基地司令のスケジュールを確認しますので、お待ちください」

 待合室のベンチシートに腰掛け、五十六は天井を見た。

 「とんとん拍子に出世しているが・・・また、提督にでもなるのかなぁ」

 そんな夢みたいな事を想いつつ、暇な時間を持て余していた。

 「隣、良いですか?」

 不意に声を掛けられた。

 「あぁ、良いですよ」

 五十六は相手をろくに見もせずに答えた。

 「ありがとうございます。中尉」

 まだ、階級章が中尉のままなので、相手はそう思ったのだろう五十六はそれを訂正しようとは思わなかった。

 「今日はどのような用事ですか?」

 声からして、女の子だと思い、五十六は相手を見た。そこには黒髪の15歳前後の日本人少女が居た。髪は肩口で揃えられ、人形のような子であった。

 「あぁ、昇進が決まっていてね。それと新たな艦隊の指揮官を拝命するためさ」

 「凄いですね。私もようやく少尉から中尉へ昇進が決まったのです。見たところ、同じぐらいの年齢ですけど、すでに中尉って事は・・・次は大尉ですか?」

 「いや、二階級特進で少佐ですよ。身に余ると言うか」

 照れながら五十六は答える。

 「凄いですね。どれだけの戦果を挙げたらそんな事が・・・」

 「いやはや・・・大した事はではありませんよ」

 可愛らしい娘にちやほやされて、中身がおっさんな分、かなり嬉しく感じた五十六であった。

 「遅れました。私の名はフジカワ=チヨです」

 「あぁ、私の名前はヤマモト=イソロク=ナターシャだ。君も軍艦乗りかね?」

 「はい。太陽系外にて、作戦に参加してました」

 「太陽系外か・・・ずいぶんと遠くの戦地に赴いていたんだね」

 「そうですね。しかしながら、まだ、地球連邦の支配が及ばない宙域は数多く、苦戦している有様です。資源獲得の意味も含めて、更なる進撃が必要かと思われます」

 「ははは。しかし、太陽系外だとワープを多用するんだろ?ウラシマ効果で歳を取らないと聞いたが?」

 「そうですね。私は現在、20歳ですが、子どものままだと言われますね」

 ハタチと聞いた瞬間、4歳も年上なのかと五十六は思ったが、口に出せなかった。

 「そ、そうですか」

 「昇進するのに4年掛かりましたよ。仕方がないですけどね。太陽系外と言っても殆どは輸送任務に従事して、戦果どころか、まともに戦闘をしてませんから」

 「亜空間潜水艦とかとも?」

 「運が良かったのか、一度も遭遇はしませんでしたね」

 五十六は自分がどれだけ運が無かったのかと悲嘆しそうだった。

 その時、事務員から基地司令室へと案内の声が掛けられた。

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