第11話 空挺作戦
海王星攻略の為に空挺部隊が用意されている。
惑星を占領する為には幾つかの方法があり、それらは惑星の状況に応じて変化する。
海王星のように目立った地形も無い資源確保の為の惑星の場合、テラフォーミング(惑星改造)などは行われず、都市となる物は存在しない。大抵は衛星軌道上に幾つかの基地が存在する。それらを破壊するか、または占拠する事がこの手の惑星の攻略方法となる。
今回は太陽系から一番遠い惑星である事から、基地の破壊をしてしまうと、新たにここに基地を設置するまでに相当な期間が必要となる為、再利用を考慮して、無傷での占拠が求められた。
その為、連合軍が用意したのは強襲空挺艦が3隻と輸送艦2隻であった。
強襲空挺艦には戦闘型短艇が10艇搭載され、1個中隊の空挺部隊の運用が可能であった。
戦争において、もっとも危険だと言われる宇宙空挺隊。
最低限の防御しか持たない戦闘型短艇に乗り込み、敵地へと飛び込み、下手をすれば、宇宙服一枚で撃ち合いをする。勇猛果敢な者でしか務まらないと言われ、軍においては名誉とされた。
「加速が終わるらしい。あと少しで到着だ」
隊長が待機室でそう叫ぶ。その場には屈強な男女が談笑していた。これから死ぬかもしれないのに、彼らは余裕があった。無論、それはいくつも死線を乗り越えてきたらかに過ぎない。
その中において、トーマス・ジェファーソン上等兵は緊張していた。彼は陸軍から宇宙空挺隊に移って、初めての実戦であった。
「トーマス。初めてだからって、ビビるな。お前には立派な鎧があるんだからな」
スキンヘッドの黒人軍曹が笑いながら声を掛ける。彼が言う鎧とは空挺隊にとって、もっとも必要な装備であるM07アーマードスーツである。全身を包むようなパワードスーツの戦闘モデルであり、防弾性能を高める為に丸型のズングリムックリした卵型形状に手足が生えたような形だ。人工知能が搭載され、バックパックや手足などに設置されたハードポイントに取り付けた様々なアタッチメントや火器を自由に課使えるようにしてくれる。
戦車や装甲車を過去の遺物に追いやった兵器だ。
「その鎧だって、35ミリの弾丸も高出力ビームは耐えられないでしょ?」
トーマスは緊張からか、ネガティブな事を言う。それを聞いた仲間達が笑う。
「あんた、見かけによらず、チキンだね。そもそも、敵の攻撃を真っ向から受ける方が頭がおかしいだ。撃たれないように用心深く動きな。当たったらアンラッキーだったと自分を恨みな」
仲間の女性兵士にそう言われて、トーマスは顔を赤らめる。
「お喋りはそこまでだ。お前ら、鎧に乗り込め。あと10分で降下だ」
軍曹に怒鳴られ、全員がアーマードスーツに乗り込む。乗り込むには肩口ぐらいから上がハッチとなっており、大きく上方に跳ね上げ、そこから乗り込む。簡単なシートはあるが、基本的には立位となる。足部、腕部に手足を入れることから、着ぐるみと蔑称される事もある。
『・・・起動完了・・・エネルギー100%・・・搭乗者の認証完了』
乗り込んだトーマスの目を覆うゴーグル型モニターにデータが次々と表示される。
「武装の接続も問題なし。全てOKだ」
トーマスは興奮する。元々、空挺作戦前に興奮剤が与えられている。それが無ければ、危険な任務を前にビビる奴が続出するからだ。その為、空挺隊員は精神的におかしくなると言われるが、軍はそれを無視している。
『母船から短艇が射出されました』
トーマス達5体が搭乗する戦闘型短艇が母船の腹から放り出さる。推進剤を多量に後方へと噴き出し、戦闘型短艇は一気に加速して、母船から離れていく。戦闘型短艇自体は無人操縦機である。使い捨てで無いものの、空挺隊を放出した後は破壊されるまで、彼等を支援するように指示が与えられている。
海王星の総合司令基地は当然ながら、防衛体勢に入っていた。
基地司令は連合軍が基地破壊では無く、占拠を選んだ事に微かに安堵する。破壊を目的にされれば、無数のミサイルや砲弾が撃ち込まれる。それらを防ぎ切れる程の防御力は無いからだ。
「母国から応援が10時間後に到着する。それまで耐えるんだ」
連合軍の攻撃を受けて、すぐに母国に応援要請を出している為、かなり早く到着する事が解っていた。敵に破壊の意思が無ければ、海王星の防衛は可能だと司令官は考えた。
衛星軌道上に浮かぶ球形の人工物。小惑星型と呼ばれる宇宙ステーションに対して、空挺作戦が始まった。
推進剤を噴きながら急速に接近する戦闘型短艇に対して、ビームが放たれ、砲弾とミサイルが次々と放たれる。
戦闘型短艇の前方に展開された粒子型バリアがビームを拡散させる。目映い輝きとなって、霧散するビーム。
戦闘型短艇も設置されたビーム兵器にて応戦を始める。
敵の防衛網を突破するのは火力と運だと言われる。空挺部隊を支援する為に多くの戦闘艦も攻撃に参加している。戦艦の強力なビーム砲やレイル砲が基地の防衛設備を次々と破壊していく。
すでに防衛艦隊を失った海王星の防衛側には勝ち目は無かった。唯一は敵の占拠を防ぐために籠城するしか無かった。
1隻の損失だけで空挺部隊は海王星の司令基地に到達した。球体の表面に貼り付き、堅く閉じたゲートを破壊して、侵入口を設ける。
「膜をこじ開けてやった。あとは奥まで入れば、俺らのもんだ」
軍曹が叫ぶ。イヤフォンの中で響き渡る。
「軍曹。耳が痛いから、そういう事は短距離無線を切ってからにしてくれ」
「了解であります。少尉殿」
笑いが起きた。とても、これから敵基地に突入して、殺戮をする奴等の会話じゃないとトーマスは思った。
短艇から次々と司令基地へと入って行くアーマードスーツ。
基地内での戦闘が始まる。警備システムが動き、彼らの行く手を阻むが、所詮は警備システムである。彼らは腕に設置した5.56ミリ機関銃でそれらを撃破していく。
だが、先頭を進む兵士が突然、爆散した。
「くそっ、対戦車ロケット弾だ。基地内で使ってきやがった」
少尉が口汚く、叫ぶ。気圧はゼロに近い状態になっているとは言え、密閉が必要とされる宇宙船や宇宙ステーション内で激しい爆発を伴う兵器を使うのはタブーであった。
「相手も必死なんですよ。これだけ抵抗するって事はすでに応援が近付いているんでしょう?」
軍曹がそう告げる。
「だろうな。とっとと、ここを抑えないと、今度は俺らがここに籠城する事になるぞ。突撃、突撃!」
狭い通路内で激しい戦闘が始まる。敵はロケット弾を次々と発射する為、壁が破壊されていゆく。
「ランチャーを押さえろ!これ以上、破壊されると宇宙に飛ばされるぞ」
誰かが叫ぶ。だが、ロケットをまともに食らえば、アーマードスーツの脆弱な装甲など、一瞬にして吹き飛ぶ。安易に飛び込めなかった。
「トーマス!トーマス!お前がいけ!ロケットを躱しながら敵を掃討しろ」
「無茶です!」
少尉に言われて、トーマスは無理だと言ってしまった。
「トーマス!ビビるな!お前は空挺隊員なんだ!いけいけ!」
軍曹に怒鳴られ、トーマスははぁはぁと過呼吸になりながら、諦めて、飛び出した。
有線で誘導されたミサイルが発射される。僅か30メートルの距離では躱すも何もない。トーマスは狙いが定まるのも待たず、右腕に装着されている機関銃をフルオートでぶっ放す。
「うああああああ!」
トーマスはミサイルに向かいながら走り出した。乱射される銃弾は幸いにもミサイルに命中して、爆散させる。ジェット噴流と破片がトーマスのアーマードスーツを傷付けるが、それを無視して、トーマスは敵へと飛び掛かる。そこには似たようなアーマードスーツを着た敵が数人、居た。激しい撃ち合いが至近距離で始まる。腕に機関銃だけじゃなく、肩に装着したビーム砲も唸る。敵のアーマードスーツの腕が一瞬にして切断される。まさに肉弾戦の有り様だった。トーマスの目の前に敵のレイルガンの銃口が向けられた。発射される40ミリ砲弾を受ければ、一瞬にして、トーマスの頭は吹き飛ぶ。やられると彼は思った。
だが、その銃口は横から味方の銃弾によって、吹き飛ばされて終わった。
「よし!トーマス!よくやった。かなり損壊したみたいだな。後につけ」
安堵したトーマスは緊張と恐怖の余り、小便を漏らしたことに気付いた。
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