第10話 勝利
五十六は追跡してきた敵艦隊が全て、撃沈されたことを確認した。
再び転進を命じる。
「推進剤はすでに無いか・・・機関最大。敵拠点攻略を行う」
五十六は転進を命じた艦隊に対して、更に前進、敵拠点攻略を命じる。
その頃、別の宙域における戦闘でも同様の事態が起きていた。
偵察を疎かにした地球連合側は多くの損害を出していた。
半数を失った艦隊は残りの推進剤を用いて、離脱を試みるのが精一杯だった。
「ヤマモトの艦隊が敵拠点への突入を始めただと?明らかに戦力不足だ。呼び戻せ」
「しかしながら、通信不可能な距離まで進出しています」
艦隊司令官は苦渋の選択を強いられる。
「ヤマモトの損害は少ないのか。あそこは米軍が全滅した宙域だ。敵も相当な損亡をしていたって事なのか?」
『状況は不明。現状のセンサー類では確認が出来ません』
「ちっ・・・くそっ。偵察機を出せ。情報収集をする。残存部隊は一度、新規ポイントに集結するように圧縮データを送信」
『了解。偵察機3機を該当宙域に向けて、射出します。データ圧縮中』
味方艦隊が再編成されるには時間が掛る。五十六はそれを見越して、動いていた。
「艦隊の損害は軽微。対艦兵器の残存も十分だな。このまま、一気に突入して、敵の防衛網に穴を開ける。そうすれば、残存部隊だけでも突入は可能になるだろう」
五十六の指示に従い、彼の艦隊は機関最大で突き進む。
情報伝達が困難なのは敵も同じだ。敵が自分達の防衛網に綻びが生じている事にしっかりと気付けてはいない。むしろ、退避していく敵の動きを観察するのに手間取っていた。
五十六の前に敵は居らず。目標となる海王星の衛星軌道が目視可能な地点にまで到達した。その時点で海王星防衛システムが五十六の艦隊を捉えた。衛星軌道上に設置された防衛用人工衛星が稼働を始める。
「全弾発射!」
だが、それより先に五十六は艦隊に攻撃を命じた。
一斉発射される対艦ミサイルとビーム砲、レイル砲。
防衛用人工衛星を含む、多くの人工衛星が次々と爆散した。
『敵艦隊を確認。巡洋艦クラス1。駆逐艦クラス4。小型艦8』
「駆逐する。転進して、攻撃せよ」
五十六の艦隊は更に進路を敵艦隊に向け、攻撃を始める。激しい砲撃戦となる。
先頭を進む五十六の艦に多く着弾がされる。船体表面に張られたバリアが弾かれ、破片が船体に突き刺さる。
「駆逐艦を守れ。砲撃を止めるな」
五十六は振動に堪えながら、AIに攻撃継続を命じる。
激しい戦闘は15分程、続き、敵艦隊の半数が爆散して、終わった。残りの艦にも損害が大きいのか、撤退を開始したからだ。
『船体の損害は表面的な物だけです。航行に異常なし』
AIからの報告に五十六は安堵する。部下の艦から光信号が発せられる。
「敵艦隊の追跡についてか。止めておけ。無駄だ。一度、戻る。艦隊をここに誘導して、作戦の継続を上申せねばな」
五十六は逸る部下を治め、突入した箇所へと向けた。
「通常機関のみの速度では遅いな」
五十六は思ったよりもゆっくりとした進行を気にしつつも、戻った。
その頃には本隊が接近してきた。
「増援か・・・こちらは推進剤もミサイルも少ない。彼等と交代すべきだろうな」
五十六は発光信号にて、状況を伝えた。本隊はそれを理解して、五十六達に代わって、突入していった。
5時間後。本隊は1割の損害を出しつつも、海王星宙域の防衛拠点の破壊に成功した。海王星は裸となり、占領は可能な状態となった。
この時点で海王星の政治、行政機関に対して、降伏勧告がなされる。
しかしながら、味方の増援が期待が出来る状況と、こちらが空挺能力を有して無い事を察した敵はそれを無視して、徹底抗戦を示した。
この時点で海王星を巡っての戦いが激化していくのが予想された。
五十六は早々に艦隊を補給の為に後方へと移動させる事を作戦本部に進言し、許可を得た。
「補給地点までは10日間の旅か。推進剤を使い切ると長いな」
五十六はAIが弾き出す航路を眺め、辟易とする。
「海王星の攻略には空挺戦力を1個軍は投下しないと無理だな」
贔屓目に見ても、これだけの戦力を早急に海王星に送り込む事は現在の連合軍には無理だった。宇宙戦力においても無人兵器が活躍が出来ないわけだが、地上戦となれば、それは大きくなる。全てを無人兵器が代行する時代は遥か昔に終わっている。今は昔ながらの近接戦闘が当たり前になった。
無論、20世紀までと違い、純粋な歩兵は減り、パワードスーツが当たり前となった。戦車も無くなり、歩兵戦闘車や装甲車が主力となっている。
誘導型ミサイルも無線は敵にハッキング、ジャミングされて、当たらないのが当たり前で有線のみとなってしまった。即ち、無誘導のミサイル、砲弾が戦争の主役であった。ビーム、レーザーなどの光線兵器もあるが、それを無効化する技術もある為、かつてほど、用いられなくなった。
すなわち、戦争は第二次世界大戦まで後退したと言われる。
「俺の時代なら当たり前の事を今でも繰り返しているとはな。野蛮なもんだ」
五十六は嫌味っぽく呟く。
それ程にこの時代の戦争は血生臭かった。
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