第9話 駆け引き

 海王星宙域への侵攻作戦が開始された。

 推進剤を噴きながら、高速移動を開始する艦隊。

 五十六も同様に自分の艦隊に高速移動を命じた。

 推進剤はみるみる量が減っていく。

 全ての艦隊は警戒を厳にするも、敵に察知されるのを防ぐ為に、一切の偵察行動は行っていない。

 「やれやれ・・・こうも相手の状況が掴めないのにな」

 五十六からすれば、その動きは餌に群がる犬を見ているようだった。

 「偵察機を出す」

 『使用は控えるようにありますが』

 「控えるだけだ。使用は禁じられてない。俺が指定したエリアに向けて射出。それらを回収して、分析が終わるまで、艦隊はこの地点で一旦、停止させる」

 『了解です』

 目標の前にして、五十六の艦隊は停止する事になる。この事が艦隊命令に対する違反、または敵前逃亡と捉えられるとまずいと五十六は考えた。

 「停止は無しだ。蛇行しつつ、時間を稼げ。あくまでも敵への牽制行動のようにな」

 『了解』

 軽巡洋艦ナガラからミサイルの形状をした無人偵察機が射出される。それらは推進剤を放ちながら、一気に加速していった。

 

 この間に最初に敵と接敵したのはアメリカの艦隊であった。

 先兵を務める水雷艦隊は機雷源に突入してしまう。光学迷彩とステルス性能を有したそれらを探知する事が出来なかった彼らは艦隊の4割を失うことになった。結果的に進行は阻まれ、彼らは侵攻を停止した。

 「ガッデム!掃海作業の終了は?」

 艦隊司令のモルガン大佐はAIに怒鳴る。

 『8時間程度掛かります』

 「バカ野郎!そんなに時間を掛けていたら、他の艦隊に一番を取られるぞ」

 あまりにも身勝手なモルガンであったが、奇襲という事を考えれば、遅れを取る事は失敗に直結する。

 「こんな複雑に機雷を設置するなんて・・・奴ら、どういうつもりだ?」

 モルガンが悩むのも解る。彼が突入経路に決めた場所は通常航路にも設定される場所であり、ここに機雷が設置されるとなると、惑星への接近はかなり難しい事になるからだ。

 だが、掃海作業が進められる中、突如として、機雷の一斉爆破が起きた。

 

 「大きな爆発が起きたな」

 五十六は光学センサーにて、大きな爆発を確認した。それはアメリカの艦隊が突入した場所であった。

 『アメリカ艦隊が全滅した模様。現在、光学センサーにて、確認中』

 「無駄だ。あの爆発で無事でいられる艦などあり得ない。やられたな。しかし、機雷源の一斉爆破なら・・・あそこに活路があるか・・・」

 五十六は微かに考える。現状で、彼の進路上にどのような危険があるか不明であった。飛ばした偵察機はまだ、戻らない。

 「偵察機の回収は?」

 『すでに予定を大幅に超えて、帰還していない偵察機が3機あります』

 「その3機の予定偵察エリアを表示」

 空中に投影されるマップ。

 「ここで敵が待ち伏せしている。数が多い。我々の手には負えない。進路を変更。アメリカ艦隊の攻撃目標に向けろ」

 『それでは既存の作戦に背く形になりますが?』

 「すでにアメリカ艦隊は失われている。作戦は失敗に近い。撤退しても構わないんだ。攻撃するならここがチャンスだ」

 五十六の艦隊は転進した。残りの推進剤を使い、一気にアメリカ艦隊が失われた宙域へと向かう。

 

 爆破された機雷源には多くの破片が漂う。

 アメリカの艦隊の多くは損傷を受け、戦闘不能に陥っていた。

 モルガン自身も大きな負傷をした。

 彼の艦も大破して、航行不能どころか、生命維持装置すら機能していなかった。だが、それでも彼は無事な部下を励まし、救難を待った。

 その横を五十六の艦隊が猛スピードで駆け抜ける。

 浮遊する破片を弾き飛ばしながら、モルガンが攻撃する予定だった。敵の軍事拠点へと迫る。

 「機雷を一斉爆破させたんだ。ここに敵が突入して来るのは相手も予測済みというか・・・誘い込まれたようなもんだろう。多分、何かしらの待ち伏せがあるはずだ」

 五十六はすでに飛ばした偵察機の様子を伺う。何かあれば、偵察機は警報を発するようにしている。

 『ミサイル群を確認、高速で接近中。迎撃を開始します』

 「了解。全艦、進路を変えずに突入をする」

 戦局を左右するのは十分な準備とタイミングである。

 五十六はそれを嫌と言う程、体験している。

 圧倒的な戦力であってもタイミングを間違えれば、劣勢に陥る。

 「敵はこちらが罠に掛かったと思っているはずだ。それを逆手に取る」

 五十六は覚悟を持って、ミサイル群に飛び込む。

 防空レーザーがハリネズミの針のように全方位に放たれ、迫りくるミサイルを撃破する。それは五十六に続く、駆逐艦達も同じだ。

 縦一列で彼等は一気に突き進む。

 ミサイル攻撃を諦めた敵艦隊が迎撃の為に姿を現した。

 「ふん・・・巡洋艦2隻に駆逐艦7隻か。悪いが、おっとり刀で出で来るには遅いぞ。攻撃目標、敵艦隊!」

 敵艦隊を目前に艦隊は大きく左舵を切り、同時に対艦ミサイルを次々と発射する。五十六の乗艦する軽巡洋艦は主砲のリニアレイルガンを次々と放つ。

 先制攻撃を受けた敵艦隊は攻撃を開始する前に次々と被弾していく。

 「敵の反撃がある。このまま、離脱する」

 五十六はニヤリとした。敵は確実に五十六の艦隊が軍事拠点に突入すると読んでいた動きだった。だが、五十六は敵が防衛の為の艦隊を待機させていると踏んで、それを攻撃する事を最優先にしていたのだ。

 

 鼻っ柱を叩き折られた敵艦隊は体勢を整えるのに手間取り、五十六達に反撃をする事さえ出来なかった。飛び込んで来るミサイルを迎撃しつつも、艦隊の4割に被害が及び、その多くは行動不能に陥った。

 だが、ここで五十六の艦隊を無傷で返せば、再びここに敵が雪崩れ込む。そう考えた敵艦隊は即座に残存艦隊を五十六艦隊の追撃に向ける。

 

 「追いかけてきたか。体勢を立て直すと思ったが・・・やはり、ここが奴らの弱点でもあるって事かな」

 五十六は敵の動きを観察した。そして、敵の動きから考えられる可能性から導き出される答えを見出す。

 「艦隊に陣形変更の指示を出せ。横一線。陣形が整い次第、機雷を投擲。追いかけてくる敵を駆逐する」

 そう指示を出すと艦隊同士が光信号にて連絡を取り合う。

 そして、艦隊は陣形を変更した。それから、指示通り、機雷が後方へと放たれる。機雷はそれ自身がステルス性能を有し、短いながら推進力を持つ。

 五十六艦隊を追撃した敵艦はその機雷の中へと飛び込んでしまう。

 突如として彼方此方から飛び込んで来る機雷は爆発を始め、敵艦隊は一瞬にして、爆散してしまう。

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