第8話 侵攻前

 海王星宙域に集結したのは米英仏独日の宇宙艦隊であった。

 宇宙において、戦闘可能な艦隊を保持しているのはこの五か国以外にはロシア、中国、インド、オーストラリア、カナダであるが、現在、別の宙域において作戦中であった。地球が宇宙へ進出した時、宇宙開発競争が激化した。これらの国々はその当時に宇宙進出を果たしたわけだが、宇宙独立機構はロシア、中国が開発した地域を中心に立ち上がった勢力であり、結果的にロシアと中国は宇宙における権益を大きく後退させたという歴史がある。

 宇宙においては米・日・英・仏・独が独占している状態であり、地球連合の主要メンバーもこの五か国だった。地球そのものが、環境問題などで厳しい状況で他国はそれに従うしか無かった。だが、これが未だに戦禍を引き起こしている原因でもあった。


 五十六は他の艦隊より1日程度、遅れる形で合流を果たす。

 「無事にここまで到着が出来ただけマシか」

 今回の航海では敵の異次元潜水艦の攻撃を受けずに済んだ。

 五十六は終結している艦隊の状況を光学センサーを駆使して、調べさせる。作戦概要は未だに届いておらず、全体の規模も解らないからだ。

 『第3機動艦隊の艦隊司令部から連絡艇が有線によるデータリンクを求めてます』

 AIに言われて、光学センサーの映像を眺めると連絡艇が傍に近付いているのが見えた。

 「許可する」

 そう告げると、AIはすぐに作業を始める。連絡艇から伸びたケーブルを接続させて、データをやり取りする。それは作戦概要であった。

 五十六は表示されるデータを眺める。

 今回の作戦は海王星周辺の宙域における支配権を確保する為の任務であり、主な攻撃目標は敵の防衛戦力である。海王星自体はガス惑星であり、固定された施設は無いが、三つある衛星には防衛施設があり、この惑星の拠点は5つのコロニー衛星である。海王星宙域は敵の拠点であるが、本拠地である土星に比べて、開発の歴史が短く、まだ、発展途上のエリアだった。

 「予測される敵艦隊は3隻の戦艦を主力とする30隻程度の艦隊か」

 これらの艦隊の配備状況は不明。

 「多分、三つほどに分けられ、分散配置されているだろうが・・・安易に近付けば、機雷源などに突っ込む可能性もあるな。それに伏兵が潜んでいる可能性も考えられる」

 五十六は冷静に海王星の周辺を以前に取られたデータで確認している。現在は敵によって、スクリーンと呼ばれる電磁層が施されている為、電波望遠鏡でもこの宙域を見る事は出来ず、光学望遠鏡などによる観察のみだが、それとて、光学迷彩を施されると、距離がある為、解像度の問題から解析は不可能であった。

 「情報不足は大きな痛手となるが・・・どうも、情報不足は当たり前という風潮が作戦本部と言うか・・・軍全体にあるようだな。あまりに愚かな流れだが・・・」

 五十六はこのようになってしまった原因を考えた。

 情報の殆どを電子通信技術に頼っていた時代が長らく続いたが、人工知能の暴走や乗っ取りなどが相次ぎ、電子通信技術に制限が掛かると、途端に電子通信技術に対する不信感が地球側に大きく根付き、それが今の風潮を作っているのだろうと想像が出来た。

 「まぁ・・・当たり前のように使っていた物に裏切られた憎悪はあるんだろうけどな」

 五十六は感情的な部分に理解を示しながらも、やはり情報を疎かにしたような作戦立案などに不快感を示した。

 

 五十六のそんな心配をよそに作戦司令部では意見が交わされていた。

 この作戦に参加するそれぞれの国の艦隊司令官がその場に居合わせる。

 「この宙域における最大の占領拠点はこの第1コロニーである事は間違いが無いが、どこの国の艦隊が最初に攻撃を仕掛けるかを決めないといけない」

 作戦司令官を務めるアメリカのウェストコート大将がそう告げると、それぞれの国の艦隊司令官が挙手をする。

 「アメリカばかりが、利益を得るのは不公平だ」

 そう叫んだのはオーストラリアのサザーランド中将であった。

 「確かに」

 彼の意見に対して他の国々も同意していく。困惑したウェストコートは日本のササカワ中将を見る。それを見かねたササカワはおもむろに発言する。

 「何も敵の最大拠点を攻略したからと言って、その後の占領に大きは権利が与えられるわけじゃない。占領に関しては占領後に参加国でしっかりと検討するとしているんだ。今はそんな事で言い合いをしている場合じゃないだろ?」

 「だが、これまでも、最大拠点を攻略した国にある程度のアドバンテージが与えられている。それは事実だぞ?」

 ササカワの意見にもウェストコートは噛み付いた。

 そんな言い合いを結果的に1時間も費やしてしまったが、まともな答えが出ぬまま、おざなりの作戦会議は終わりを告げた。

 今回の作戦では予想される戦力の3倍の戦力が投じられるとして、参加国の誰もが楽観的になっている為に余計にこうした事が揉め事になったのである。

 

 現場においては作戦会議がまともに行われてない事など、誰も知る由も無く、ただ、上から流れてきた作戦に従って、行動を起こすだけであった。

 五十六は作戦を眺め、疑問を抱いた。

 日本艦隊は主力となる戦艦を擁する第12艦隊が最初の目標である防衛用宇宙ステーションへの攻撃を行う。五十六の艦隊はその左翼に配置され、艦隊側面への攻撃に備えるのが目的だ。目標撃破後は転進して、海王星の敵拠点、スペースコロニーへと攻撃を行うが、その時は惑星の裏側への移動となるので、他の国の艦隊に比べると到着は遅れる事が予想された。

 「敵の艦隊に関しての情報が無いが・・・常に警戒して、行動せよか・・・現地に到着せねば解らないって事か・・・偵察を厳にしないと・・・待ち伏せされるな」

 五十六はそう思いながら、偵察に関する行動基準を眺める。すると、敵に察知されるのを防ぐ為、極力、偵察機等の使用を禁じるとなっていた。

 「バカか・・・こいつはマズいな」

 五十六はある意味、絶望的になる。

 「悪いが・・・贄になる為に動いているわけじゃないぞ」

 そう呟くと、AIに新たな指示を出した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る