第7話 水雷艦隊

 五十六の元に命令書が届いた。

 新たな任務は輸送艦隊の解体と戦闘艦のみで新たに水雷艦隊の設立であった。

 その上で、海王星宙域奪還作戦への参加が命じられた。

 宇宙での戦争において、重要視しないといけない事は惑星は常に移動をしている事だ。当然ながら、太陽系は太陽を中心に全ての惑星が公転している。つまり、拠点とすべき惑星の位置は自分が現在、居る場所と相対して、常に動いている事を意識しないといけない。これが海戦とは違う点だ。

 「三日後に出航して、木星宙域に1週間で到着か・・・時間が無いな」

 五十六は細かい計算をAIに任せて、編制と補給作業を命じた。

 殆どの事はコンピューターがやってくれるが、人間同士はそんな簡単では無い。リモートで会議をするよりも身近で顔を合わせてやる法が士気にも繋がる。

 五十六は部下を集めて、近所の料亭の個室を借りた。

 「宴とは珍しいですね」

 部下の1人が笑いながら言う。多分、こうした感じでブリーフィングをする習慣は無いのだろう。

 「まぁ、大抵は画面越しだからな。たまにはこうして、互いに飲みながら、話すのも良いだろう」

 五十六は女の子とは思えぬあぐら姿で豪快に日本酒を飲む。

 「まぁ・・・酒は不味い合成酒だが、こうして、皆と飲むのは楽しい」

 五十六がそう言うと、部下の1人が笑いながら揶揄う。

 「なんか、おっさん臭いですね」

 「おっさんか・・・そう言えば・・・そうだな」

 五十六は言われて見て、自分の姿が改めて、少女だったと思い出す。さすがに恥ずかしくなり、あぐらを正座に戻す。

 「しかし、こんな純和風な料亭がこんな場所にあるんですね?」

 部下の女性士官が珍しそうにしている。

 「そうか。そうだな。最近は洋風が殆どだからな」

 五十六からすれば、こうした座敷が普通で、洋式は洒落た感じという気持ちしかなかった。

 「しかし・・・新たに艦隊が編制されるという事は・・・我々は本格的な戦闘作戦に参加するんですか?」

 部下の問い掛けに五十六はつい、口を滑らせそうになるのを酒を口にする事で止める。

 「それはここでは言えないが・・・覚悟はしておけ。この間の戦闘でも被害が出たが、本格的な戦闘になれば、全滅だって、あり得る」

 「全滅ですか」

 「駆逐艦の撃沈率は4割。半分近くは沈められる可能性がある。生命を保持するコアブロックやクッションゾーンは巡洋艦クラスに比べても弱いからな。それよりも現在の艦隊決戦においてはどうしても、水雷艦隊は最前線に投じられる。敵の砲撃に晒されるのも我々だ。正直、私はこんな非効率な戦闘を繰り返していては、いつまでも戦争は終わらないと思うがね」

 「艦隊司令。それは作戦本部批判になりますよ?」

 「ははは。それでも構わない。戦争って奴は勝ち負けじゃないが、やる以上は、結果を出さないといけない。今のやり方は、正直、何も結果が出せないな」

 五十六の言葉にその場に居る部下達は黙ってしまう。

 「では艦隊司令は何か妙案でもあると?」

 沈黙を切裂いて、女性士官が尋ねる。

 「あぁ、この時代において、航空戦を復活させるとかな」

 「航空戦ですか・・・ですが、空母は昔、搭載機が敵に乗っ取られ、甚大な被害を受けた事から、封印されていますけどね」

 部下の1人がそう答える。

 「あぁ、それは知っている。だが、それは全て、無人機であったからだ」

 「有人機にしろと?」

 「それも手だな」

 「確かにそれは手ではありますが・・・非人道的だと言われそうですね」

 「非人道的か・・・まぁ、ミサイルに人が乗るようなもんだからな」

 「そうではなく。あのサイズではコアブロックなどの安全装備が搭載が出来ないかと」

 「無人機よりかはもう少し大きくしても構わないと思うんだ。必要なのは速度と航続距離だからな。出来れば、ステルス性能があれば、良いな」

 「ステルス性能ですか。最低限はミサイルにだって施されていますが、今の時代、光学システムから隠匿が出来るステルスは無いですからね」

 「そうだな。光学迷彩とかも完全には隠し切れないしな。未来の世界も厄介なもんだ」

 五十六の言葉に皆が笑う。

 「未来の世界って、まるで過去から来たみたいな」

 部下の1人が笑いながら言う。だが、それは五十六にしてみれば、事実でしか無かった。

 宴は深夜まで及び、解散となった。

 

 翌朝、ブリーフィングが行われた。

 集めらえた部下達はスッキリとした顔で五十六の前に並ぶ。

 「ごくろう。これかより、新たな艦隊の結成を発表する」

 五十六は命令書を皆に与え、水雷艦隊の結成を命じた。

 第359水雷艦隊は二日後に出航をし、その三日後に戦域に到着する予定であった。

 「すぐに補給を行い、出航準備を備えろ」

 五十六の命令を受けて、部下達は自らの艦に散って行く。

 五十六自身も自らの艦に戻り、補給の状況を確認する。

 

 「補給の状況は?」

 五十六はAIに尋ねる。

 『現在、エネルギーは95%。ミサイル、弾薬に関しては68%。その他は100%です』

 「ミサイルなどが遅れているな。原因は?」

 『ここに貯蔵されている量では不足しています。現在、周辺から集められておりますが、全体的に不足気味かと』

 「では・・・出航までに満載に出来無いか?」

 『予定では80%前後かと』

 「仕方が無い。いつの世も物資不足はよくあることだ。一回、全力で戦闘が可能なら十分だ。もし、駆逐艦で不足するようなら、ミサイル関係はそちらに回せ」

 『了解』

 五十六はまだ、与えられていない戦闘に関する命令を考えながら、必要な作業を中心に出航までを過ごした。

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