第5話 戦死

 地球連邦と宇宙独立機構

 戦局においては拮抗していた。

 原因は宇宙独立機構には本拠地となる惑星が無い事である。

 彼等の本拠地は海王星域にあるコロニー群である。

 銀河系を制圧したと言われるが、実際には銀河系の端まで到達が出来たに過ぎず、人類の主だった生活圏は太陽系から離れないで居た。

 海王星域は地球から最も離れた生活圏である。

 ここから土星までを宇宙独立機構は支配下に置いている。つまり土星と木星の間が主戦場となる場合が多い。ただし、太陽の周りを公転している二つの惑星と言う事を考慮すると、安易に海上での戦争とは同一にはならない。

 五十六はその点が宇宙戦争の難しいところだと考えた。

 常に主たる宙域は移動を続けているのだ。

 「太平洋は島が動くなんてあり得なかったからな」

 五十六は笑いながら艦橋にて、今後の作戦計画を練っていた。

 すでに敵潜水艦の攻撃により、損害が出ている。今後も最前線への輸送を続ける事から、敵の攻撃を受ける事は予測が出来た。

 「これ以上、損害を出せば、輸送作戦に大きな支障を出してしまう。しかしながら、亜空間からの攻撃に対しては、現状の戦力では守り切れるとは限らないか」

 五十六は深く考え込み、隊列の一部を見直す。

 これまでは軽巡は全体の指揮を執る為に艦隊の内側に居たが、軽巡にも対潜装備があるので、これも戦力として活用する為、殿に着けた。これで艦隊は前後左右上下にまで戦力が配分された事になる。


 艦隊は次の寄港地に向けて出港をした。

 「次が最後か」

 最後の寄港地はまさに最前線であった。

 危険度は高くなっており、途中から、警備の艦隊と合流する手筈になっていた。

 「第12宇宙基地か・・・」

 これは宇宙コロニーの技術を転用して、作られた基地である。かなり巨大で、100万人都市が建設可能な部分が全て軍事施設になっているのだ。

 三日の航海で到着する筈だった。しかし、二日目にして計画はとん挫する。

 「第12宇宙基地が攻撃を受けている?」

 五十六は緊急通信を受けて、事態を把握した。攻撃を受けている最中に輸送任務を強行する愚は犯せない。常識的に考えて、安全圏にて、退避か。後方への撤退しかない。

 「まぁ・・・一時、停止して、状況を見守るしかないだろう」

 五十六はまだ、安全圏と思われる現地点における待機を選んだ。これ以上、進んでも警備艦隊との合流も無いわけで、単純に危険が増加するだけだからだ。ただし、この地点も安全とは言えなかった。

 「全周囲に警戒を怠るな。必要があれば、無人偵察機を亜空間にも飛ばせ」

 徹底した警戒態勢を指示する。

 だが、不安は的中してしまう。

 「6時7時に重量異常を確認しました」

 五十六の艦のAIがそう告げる。

 「対潜攻撃を開始せよ」

 五十六はそれが何であるかを確認する前に攻撃を指示した。無論、これは早計で相手が味方である可能性も考慮しないといけないが、それをしている間にミサイルを撃ち込まれてしまう。

 「亜空間機雷を発射します」

 AIは五十六の指示を受けて、すぐに艦後方の発射装置から機雷を次々に放出する。機雷は推進剤を噴霧しながら、高速で重力異常の起きている場所へと進み、亜空間への入り口を開く。それは強烈な重力異常を発生させるために一時的に強い力を空間に与える為、プラズマと呼ばれる発光現象が起きていた。

 「亜空間偵察機を飛び込ませ、状況を調べろ」

 五十六は次々と指示を与える。亜空間の事は外側からでは解らない。次元が違う為に多くの電波は通らないからだ。

 「12時3時に重力異常検知・・・最初の重力異常に欺瞞され、検知が遅れました」

 五十六はそれを聞いてやられたと思った。センサー類は万能じゃない。同種の現象を検知した場合、近く、大きな現象への検知が優先され、別に起きた現象を捉えきれない事がある。敵はそれを利用したのだ。

 「全艦、対潜攻撃!防御を全力で」

 五十六の指示で全ての駆逐艦が慌てて、動き回る。機雷が次々に放出されるも、別に発生した重量異常からミサイルが次々と出現した。

 超高速ミサイルと呼ばれる物で、それは高価なタキオンエンジンを使用した光の速度にも迫る速度のミサイルであった。これを迎撃、回避は至難の業であった。

 駆逐艦からレーザーが放たれる。可視光線では無いので、その光線を目で捉える事は出来ないが、一発のミサイルが破壊され、自爆した。

 宇宙に大きな爆発が起きる。五十六はそれを眺めながら、全てを迎撃しろと願う。

 爆発が次々と起きる。迎撃が成功している証であった。だが、一隻の駆逐艦が爆散した。一撃で艦は木っ端微塵となり、その残骸が艦隊全体を襲う。

 「いそなみ撃沈。搭乗者の生命反応を確認が出来ません」

 AIの言葉に五十六は唇を噛む。

 「いそなみの穴をカバーするように隊形を建て直せ。戦闘は続いている。対潜攻撃を続けろ」

 五十六はいそなみの救援を指示する事は無かった。

 対潜攻撃が続けられ、30分が過ぎたぐらいで、亜空間偵察機が周辺の亜空間に敵が居ないと事を確認した。

 「一撃離脱か・・・手練れだな」

 五十六は戦闘が終わり、いそなみの救援を僚艦に命じた。だが、搭乗者が乗ってるはずのコアブロックも完全に破壊され、マツシタの一部が採取され、死亡が確認された。

 この時点で戦局がどうなってるかを五十六が知る由も無かったが、1時間後、第12基地の防衛は成功した事が伝えられた。ただし、損害は大きく、基地の半分は破壊され、戦力の2割が沈んだ。

 五十六の艦隊は輸送を終えた。

 駆逐艦と貨物船を失い、1人の戦死という結果を出したが、危険な前線への輸送任務においては軽微な損害であった。

 五十六はマツシタの一部が入ったカプセルを眺めた。

 すでに彼の死亡報告は遺族に伝えられている。良いも悪いもデジタルの世界だ。この手の事はとても機械的で、合理的であった。

 だが、息子が死んだ事を親は簡単に受け入れられるものだろうか。

 五十六は嘆息した。

 軍人である以上、戦場で死ぬのは仕方がない。だが、誰がもそれを望んでなどいない。事実として、戦死してしまえば、遺族や知人は大いに悲しむだろう。

 「どれだけ時代が進んでもこれだけは変わらないな。否、それが嫌で・・・無人化を推し進めたんだろうな。だが、結局、ここに戻ってしまった。それが人の業って奴か・・・」

 五十六はAIに酒を出すように注文したが、20歳に達して無い為、断られた。それに酷く、恨むように五十六は項垂れた。

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