第3話 輸送任務

 五十六は自らが搭乗するはずの艦を眺めた。

 軽巡洋艦とは言え、その大きさは駆逐艦より僅かに大きい程度である。武装も左程、変わらない。唯一と言えば、駆逐艦に比べて、主砲が強化されている点にある。これは水雷戦において、後続の駆逐艦を敵の攻撃から守る為に弾幕を張る為だ。

 「100ミリ超電磁砲か・・・旧式ではあるが、物体弾による連続射撃は有視界戦闘においては最も有効だとされているが・・・」

 この時代において、レーダーは欺瞞される事が普通であった。戦闘となれば、殆どが有視界によって行われる。レーザー等の光線兵器もバリアと通称される防御壁によって、散らされてしまう為、艦船への攻撃においては非力だとされた。

 つまり、敵艦に最も打撃を与えられるのは物体弾であると結論付けられる。

 その為、水雷艦隊による近接ミサイル攻撃はこの時代においても大きな戦果を挙げられる戦法であった。

 「まさか、宇宙に来てまで艦隊決戦をするとわな。この時代における航空戦力ってのは小型無人機による攻撃か・・・ただし、敵の電子攻撃に晒され易く、現在ではそれを運用する空母に至るまで凍結されているのか・・・真珠湾を指揮した身からすると寂しい限りだな」

 五十六は戦史を眺めながら、艦橋へと上がる。

 軽巡は艦隊指揮を執る事もあり、艦長以外にも座席があった。

 「なるほど、艦隊司令部が設置された場合はここに艦隊指揮官や参謀をお迎えするのか・・・」

 五十六は艦隊指揮官の席に座る。そこからは艦隊指揮に必要な情報などがすぐに見られるようになっていた。

 「こいつは便利だな」

 五十六は感心する。空中投影型プロジェクターなど、知識の上で理解していても実物を見れば、まるで夢のような装置だった。

 「なるほど・・・これなら一人でこれだけの船を操れるのも納得だ」

 五十六は人工知能によって、完全に船の管理がなされている事に納得した。

 「正直、人工知能って奴は人間を遥かに凌駕するってもんだが・・・人間って奴はそれすら悪用してしまうんだから・・・卑しい生き物だな」

 かつての大戦の記録を思い出しながら、五十六は溜息をつく。

 基本的に船は全てオフラインになっている。同じ艦隊同士でもデータリンクには一定の制限が課せられている。これはコンピューターウィルスやハッキングなどを防止する為であった。人類が宇宙で戦争をする以前から、電子戦と言えば、電波による通信妨害などでは無く、相手のコンピューターへの攻撃であった。どれだけ人工知能やソフトウェアなどで予防しても完璧という事は無かった。

 その為、命令の受理や指示などは人間を介する必要があった。

 第31輸送艦隊として結成された艦隊の指揮官を命じられた五十六はその命令書を受理する。命令書自体は電子情報ではあるが、しっかりと作戦本部からのデジタル署名がされているかを確認した上で、幾度もシステムとは分離されたデータチェック用のコンピュータに通し、安全を確認した上で、軽巡の艦隊指揮用人工知能に読み込ませる。

 「意外と手間だな」

 五十六はその手順をしっかりと守り、全てを完了させるが、それまでに3時間を擁し、チップの差し替えやアクセスコードの打ち込みなど、五十六自身の手間も多数あった。しかしながら、それぐらいしないと、電子戦において、敵に隙を与える事になるのだと五十六自身も勉強になった。

 「輸送計画は思ったよりも単純なものだな。航路も殆ど、支配地域のようだし」

 人工知能の出した作戦の安全度もとても高い数値であった。

 艦隊の結成が終わり、港にて、部下となる者達の顔を拝みに五十六は向かった。

 戦闘艦は駆逐艦『いそなみ』『まつかぜ』『あらしお』『さつき』『はな』の5艦であった。それぞれの艦長が居並ぶ。皆、五十六と変わらぬぐらいの年齢の男女であった。

 「いそなみ艦長のマツシタであります」

 長身痩躯の男性が敬礼をする。

 「まつかぜ艦長のロードマンです」

 金髪碧眼で褐色の肌をした女性が敬礼をする。

 「あらしお艦長のチョウです」

 中国人っぽい名前だが、茶髪に白人っぽい感じの女性だった。

 「さつき艦長のニイミです」

 眼鏡を掛けた真面目そうな日本人男性。銀行員のようだと五十六は思った。

 「はな艦長のフジイであります」

 最後は小太りの芸人みたいな顔をした男だった。

 「あぁ、御苦労様、艦隊司令のヤマモトだ。我々は民間船を含む輸送船団を護衛して、幾つかの前線基地に物資の輸送を行う。基本的に危険な宙域は進まないが、万が一にも敵が亜空間潜水艦などによって、攻撃を仕掛けてくる可能性もある。充分に注意を払い、輸送船団を守り切るように」

 五十六がそう言い放つと部下達は敬礼をして、力強く返事をする。

 出航は5時間後であった。

 すでに輸送船団への荷積みは終わっており、最終確認をしている最中であった。

 「亜空間潜水艦・・・なるほどな。亜空間とは次元の違う空間の事で、ワープなどもこれらを用いるのか・・・難しい物理方式などが羅列しているが・・・理解が出来ない。ただ、ようはこの宇宙とは違う宇宙に潜り込むようにして、移動する事が可能って事か・・・そいつは厄介だな」

 五十六は改めて、勉強をしている。

 如何に彼が太平洋を縦横無尽に戦った名将であるとは言っても、ここは宇宙だ。全てにおいて、海と同じと言うわけじゃない。彼は知っている。戦いに勝つためには相手よりも多くの知識と経験を持ち、それらを駆使して、挑む事が大事であると。

 「この亜空間潜水艦に対しての攻撃は、同様に敵潜水艦と同じ亜空間に機雷や魚雷を投じる。または同じ亜空間に移動して、攻撃を仕掛けるか・・・ただし、亜空間は重力波の異常が起きており、ワープ以外の方法で通常の宇宙船が入り込んだ場合は圧潰の可能性が高いか・・・そもそも、亜空間潜航ユニットが無ければ、入り込む事も出来ないわけで。機雷や魚雷と呼ばれる武器はそれを亜空間に投じる為の小型の亜空間潜航ユニットが搭載された艦しか出来ないわけか。ワープとどう違うのか・・・。なるほど、ワープは超高速で亜空間を移動する為にこのリスクから回避されるのか。その為、固定された座標同士しか使えないと・・・色々と制約があるもんだ」

 五十六は疲れたように座席のリクライニングを倒す。

 「ヤマモト艦隊司令。出航の時間まで1時間を切りました」

 人工知能の合成音声が流れる。

 「そうか・・・準備は完了しているか?」

 「艦隊のデータリンクを処理しています。・・・問題はありません」

 「では予定通りに出航をせよ」

 「了解しました」

 

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