第4話:道具

 あけはふと学校帰りに梨彩りさと飲んだコーヒーのことを思い出した。あの時、何の躊躇ためらいもなく疑問に思ったことを店員に尋ねた。緋は普段はあまり話さない物静かな性格で、ましてや仲のいい友達ではなく店員に自ら話しかけるなどありえない。自分の性格をある程度分かっているつもりの緋にとってとても疑問だった。

「フレンチプレスだったっけ?」

スマホを取り出し調べてみる。すると、意外なことにフレンチプレスは日本では紅茶を淹れるときに使うことが多いらしい。浸漬しんし法という抽出方法でコーヒー粉をお湯に浸して成分を出して、金属製のメッシュで粉をすというシステムだから、挽いた豆の粒度とお湯に浸す時間が一緒なら同じ味を誰でも再現できるらしい。さらに、よく見る紙製のフィルターを使わないから紙に吸着してしまうオイルなどのコーヒーの成分を抽出できるそう。フレンチプレスはこのオイルでまろやかでマイルドな味わいになるが、コーヒー粉の微粉が出てくるためざらざらとした舌ざわりになることがある。とも書いてあった。緋は飲み比べた時に感じた粉っぽさと柔らかい苦みが間違った感覚ではなかったことが嬉しかった。

「コーヒーって淹れ方もいろいろあるし、オイルがどうこうとか結構奥が深いんだ」

 一人でつぶやきながらスマホの画面をスクロールする緋の目に見覚えのある器具が写った画像が映った。

「これ、見たことある気がする」

その画像に映っていたのは透明で横から見ると台形をしていて、俯瞰ふかんすると円形になっていて底に3つの小さな穴が開いた紙のフィルターを使うタイプのドリッパー。

ちちが使ていたやつこれだった気がする。まだあるのかな」

緋は自分の部屋のある二階から階段をおりキッチンへ向かう。

 オーダーメイドで作られ間取りにあった木製の食器棚を眺める。最上段のコーヒーカップとマグカップの中にさっき見たものと同じようなドリッパーがあった。しかし、取り出してみると同じものなのか分からなくなった。形は同じだが全体的に白く曇ったような感じで、底に開いた3つの小さな穴はコーヒー渋だろうか茶色くなっている。緋は一瞬、同じものなのか分からなかった。

 緋は見つけたドリッパーを漂白剤を使って洗ってみる。白く曇ったような部分は変わらなかったが、コーヒー渋だと思われる茶色はほとんど無くなった。

「やっぱり、これだ」

緋はスマホの写真ともう一度見比べ同じものだと確信した。

「ちゃんとした道具があるなら一度コーヒー淹れてみようかな」

そうつぶやくと緋はほかの道具やコーヒー豆がないか探し始めた。




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る