第3話:出会い

 あけは注文をしている梨彩りさを眺めていると、梨彩が店員とやけに長く話していると思った。しかし、後ろに他のお客さんがいないときはフレンドリーに話しかけてくれる店員もいるし、それだろうと思い特に違和感は覚えなかった。

 梨彩が会計を終えてテーブルに戻ってきた。緋は戻ってきた梨彩の姿を見て違和感を覚えた。そしてすぐに違和感の原因に気づいた。

「梨彩、飲み物は?」

 梨彩は注文をして会計までしていたのに手に何も持っていない。

「少し時間かかるからここに持ってきてくれるって」

「時間かかるって、何か変なカスタムでもしてきたの?」

「いやいや、お店に迷惑かけるような注文はしないよー。ちゃんとメニューにあるやつだよ」

「飲み物で時間かかるのとかあるんだ、知らなかった」

 SNS映えするようなものが好きな梨彩のことだからSNS映えするように注文してきたのかと思ったがそういう訳ではないらしい。提供までに時間がかかる飲み物、いったい何を注文してきたのか緋は少し気になっていた。

 梨彩が戻ってきてから5分もたたないうちに大学生ぐらいの店員がトレーにコーヒーが入った小さなポットのようなものとマグカップを乗せてゆっくりと2人のいるテーブルにやって来た。

「お待たせしました。オリジナルブレンドのプレスです。カップに注いでもいいですか?」

「はい、お願いします。」

 梨彩は躊躇ためらいもなく答えたが、緋には何を言っているのか分からなかった。すると、店員はトレーに乗せていたポットのようなものの上に伸びたてっぺんに球体のついた金属の棒をゆっくりと押し込んでいく。下まで押し込むとマグカップに注ぐ。

「お待たせしました。ごゆっくりどうぞ。」

 業務的なセリフを残しカウンターに戻ろうとする店員に緋は声をかけた。

「すみません、このポットみたいなのなんですか?」

「これはフレンチプレスと言ってコーヒーを淹れる器具ですよ。コーヒー豆を浸して、中の金属のメッシュで豆を濾すんです。紙のフィルターを使わないのでコーヒーの油分まで抽出できるんですよ。」

 注ぎ終わったフレンチプレスという器具の中にはさっきまではコーヒーで見えなかった金属製の網のようなものが押し込んだ金属棒の下についていた。

「そうなんですね。ありがとうございます」

「コーヒーは淹れ方で味が変わるので面白いですよ」

 緋がお礼を言うと、そういってカウンターへ戻っていった。

「梨彩、なんでこんなの知ってるの?」

「ん?えーっとねー、お姉ちゃんがちゃんがコーヒー好きだからその影響かなー」

「そうなんだ、知らなかった。一口飲ませてよ」

「いいよー」

 緋は梨彩に渡してもらったカップを見た。確かに、店員さんの言う通り油らしきものが表面に見えた。

「じゃあ、いただきます」

 やっぱり苦い。なんか粉っぽい気もする。一口飲んでそんなことを思っていると、さっきの店員が小さな紙コップをもってやって来た。

「良かったら、飲み比べしてみてください。同じブレンドのドリップしたものです」

「ありがとうございます」

 緋がお礼を言うと急ぎ足でカウンターへ戻っていった。

「梨彩、飲み比べするほど味違うの?」

「飲み比べてみたらわかるよ!早く飲んでみ!」

「分かった」

 緋は半信半疑だったが、飲み比べてみた。ドリップの方を飲んだらすぐに違いが分かった。

「どっちも苦いけど、プレスのほうが柔らかい苦みな気がする。私はプレスのほうが好きかも」

「でしょ!違うでしょ!コーヒーのオイルが出てるからまろやかになるみたい」

 緋は梨彩のテンションが高くなっているのに気づいた。このままだと語り始めそうだと思い、コーヒーを梨彩に返した。

 梨彩が飲み終わると店員にお礼を言って、二人はそれぞれの帰路に就いた。



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