第2話:いつも通り

 「暑い...」

 つくつくぼうしの声も小さくなってきた九月の中頃だというのに、気温は30℃を越える。

あけちゃん、帰りにスワンバックス寄って涼んで帰ろー」

梨彩りさ、ほんとにスワンバックス好きだよね」

「最近暑いから冷たくて甘いものが飲みたくなるじゃん」

「確かに冷たいものは飲みたいし、いいよ。寄って帰ろ」

緋は少し面倒だと思いながらも、梨彩からの誘いにのり校舎から少し離れた自転車置き場へ向かう。

「緋ちゃんはなんで帰宅部なの?中学ではバレー部だったじゃん」

「うちの高校バレー部そこそこ強いから、そこまで本気でしなくていいかなって。他にしたいこともなかったし」

「なるほどねー」

グラウンドの白球を追う野球部員の眩しい白い練習着姿を横目に見ながら歩く。

 吹奏楽部の練習の音ランニングをする運動部の掛け声が響く自転車置き場に着き、緋はクリーム色の20インチのコンパクトサイクルに、梨彩は青色のママチャリにのる。校門を出て二人は学校の目の前の長い下り坂を勢いよく下る。

「この坂、帰りは最高だよね」

「だね。来るときはほんとにキツイよ。私の自転車小さいからたくさん漕がないとだもん」

学校から目的地までは20分程度、国道をひたすら直進する。


 太陽が照り付ける中、二人は目的地に到着し店内へ進む。クーラーの効いた店内には、コーヒーを片手にスーツを着てパソコンを開いたサラリーマンやOL、難しそうな顔で参考書を眺める大学生、緋と梨彩のような学校帰りと思われる制服を着た高校生でほとんどの席が埋まっている。

「涼しいー、生き返るー。緋ちゃん、あたし席とっとくから注文お願いしてもいい」

「いいよ」

「あたし、限定のやつでっ!」

「はいはい」

緋は自分は何を飲むか考えながら返事をする。

 緋は注文を終え手を振る梨彩を見つける、その席へ向かう。

「緋ちゃんは抹茶かー、王道だね」

「うん。梨彩と同じ限定にするか迷ったんだけどね」

「じゃあ、一口あげるよ」

「ありがと」

二人は交換し互いの注文したのを飲む。

「ん、おいしい」

「やっぱり、抹茶もおいしいよ」

そう言って、互いの飲み物を元に戻す。その後二人は、学校の先生の話や、親が面倒くさいといった話など他愛のない話をする。

 ガガガッ

タイルの床と重たい木製のイスがこすれる音を立てながら梨彩が立ち上がる。

「冷たいもの飲んだら少し寒くなっちゃった。温かいコーヒー買ってくる」

梨彩はカウンターへ向かって行った。緋は暑いと言ったり寒いと言ったり梨彩は忙しい人だなと思いながら、その姿を眺めた。




 

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