第三章:諦めに倦む理由も、希望を持てる根拠も
1:アフターケアを大切に
ジョード・エイラルド、和名で英羅・譲恕は、混み合う学生食堂の一角で生姜焼き定食にがっつく後輩へ、
「お前、あのペースでよく体がもつなぁ」
呆れ半分心配半分で、問うところであった。
伏希・子心が、異世界『アスバリア』に赴くようになって、五日が経過していた。
ギリギリに起きて学校へ行き、終わると同時にバイトを経て、力尽きるまでワンダーマテリアルを被り続け、それから就寝。
まるで生き急いでいるかのごとく、だ。
なにせ『デイリー』をこなして、他の面々が撤収するにあたっても、居残り続けてレベリングと戦線の押し上げを行っているのだ。
「んー、コツがあるんですよ」
子心にとっては新作ゲームを手に入れた直後の標準的なルーティンであり、つまり体力分配も慣れたものであるらしい。
栄養ドリンクやコーヒーなどを用意せず、数秒間だけ集中力を高めることを、必要に応じて繰り返すのだとか。
カフェインを摂取すると、脳が覚醒しないまま眠気だけ消えてしまう状況になり、思考判断が鈍ってしまうため、メリハリをつけて活動をするということが少年の経験則である。
もちろん、短時間とはいえ睡眠は絶対に必要なため、なるべく良質な眠りを得るべく提示した創意工夫が、
「ゲーム終わりの昂りを、スッキリさせるのも重要ですね!」
二人の間の空気を凍りつけた。
「……昂りをスッキリさせるってお前、それ……」
譲恕と同じく、周囲の無関係な人たちも恐る恐る声を止め、動きを止め、少年の回答を待っており、
「あれ、何か勘違いしてません⁉ 大丈夫、レーティングにRが付かない健全なお話ですから! 未成年ですよ、俺! けどR以下の数値ってだいたい未成年域だから、四捨五入でRですよ! なんだよ、俺、卑猥じゃないですか⁉」
ひとまず目を突いておとなしくさせると、実例を教えようと言い出したので、
「こっから突然、発電ショーの独白タイムに入ったりしないよな……」
「昨日の話なんですがね……」
※
アスバリアから帰還し昂る体を持て余した少年は、徐ろに冷蔵庫から無垢な白雪のようなちくわ(四本入り)を強引に掴み引き寄せると、
「お、なんだぁ? 初めてかよ、ぴったりくっついていやがるぜ……!」
舐めるように指を滑らせ、耳を荒々しく引き裂いてはなまめかしく艶やく柔肌を剥き出しに。
その丸みを帯びた姿態を鷲掴みにすれば、抗うように細身が揺れるから、
「へへ……暴れるなよ、おとなしくしてれば優しくしてやるからよう……!」
力づくで押さえつけ、薄く塗れる秘口に男の太い指をあてがい、第二関節まで一息に突き入れると、
「ははは! なんだかんだ言って、体は正直じゃねぇか! ほら踊れ踊れ!」
指先の乱暴な動きに否応なく体をくねらせる様へ、下卑た笑いを見せながら、
「おいおい! お友達も物欲しそうに見てるじゃねぇか! 並んで見せつけてやれよ!」
並んでいたお仲間を引っ掴むと、躊躇なく穴に指を。
二つ、屹立した魚の切り身の真ん中をくり貫いた食材をブルブルと躍らせながら、
「はっはっは! 右に振ってすぐに左に振ったら、慣性のカウンターが指先にダイレクトにあっ! あっ! あっあっあっああああああ!」
クライマックスに迫るなかで、壁がゼロ距離鉄山靠みたいな音をたてたため、
「ヒッ……!」
とちくわを握り潰してしまったので、お開きとなった次第である。
※
「ちなみに無惨な姿になったお二人は今日の朝ごはんになりまして、登校中に鉢合わせたお隣さんにはゴミを見る目で舌打ちされましたよ! ちくしょう、未開の荒野を胸に持つ分際で……!」
朗々と語る頭おかしい惨状に、渦巻く言葉を選びながら目頭を強く抑えていると、
「お隣さん、悲惨すぎるだろ……!」
「三年間、脳フリーダムと隣室とか……!」
「ちくしょう……! しばらくちくわ食えねぇじゃねぇか……!」
耳をそば立てていた周囲の学生たちも、口元を抑えて嗚咽をこらえる。
「じゃあ一昨日の話をしましょうか? 一昨日はバームクーヘン……」
「いい! いいから黙れ! 俺の食事のレパートリーを減らすな!」
はあ、と吐息して、牛乳プリンを一口。
「先輩、甘いもの好きですよねぇ。部屋に上白糖のキロの袋を積むとか」
「こっち来て一番驚いたのが大量の砂糖だったからな」
ポケットに売店で買ったチョコや飴を仕込んでいて、クラスメイトから頻繁にたかられるほどの認知度になっている。
肩を落としながら、とりあえず最重要である連絡事項を伝える必要があり、
「まあ、とにかく、今日の放課後、ミーティングするからな。会議室押さえてあるから、フケるなよ?」
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