第33話 逆転

「乙姫さん、右へ!」


 守里の指示通り、乙姫が横に跳んだ直後、爆発音が拡散した。


 けれど、乙姫は無事だった。


 守里の鑑定能力で、空間そのものを鑑定して、風爆弾の位置を把握したのだろう。


「茉莉さん、貴女の下位互換相手に、何をしているのですか?」

「マツリの、下位互換? ……あー、なるほどっす」


 茉莉は、得心を得たようだった。


「それと赤音さん、敵が空を飛ぶなら、貴方は空を走ってください!」

「え? どういうこと?」

「赤音、耳貸して」


 声を張り上げた守里の指示には、赤音よりも先に伊舞が理解したらしい。


 伊舞が赤音に耳打ちをすると、赤音は好戦的な笑みを浮かべた。


「OK」


 伊舞は地面に手を着くと、そこら中の地面から、次々石柱を伸ばしていく。


 怪鳥にまたがる今鳥は、その全てを華麗に避けながら、悪態をついた。


「おいおい頭どうにかなったんじゃねぇの? そんな遅い攻撃が当たるわけねぇだろ? それとも、障害物でピーちゃんの羽ばたきを邪魔しようとかそういう魂胆か?」

「いや、違うよ」


 伊舞の口元に、珍しく悪い笑みが浮かんだ。


 タンッ タンッ タンッ


「それはめくらましで、赤音の足場だ!」


 赤音はルベルの脚を使い、石柱の間を三角跳びの要領で駆けあがった。


 石柱が邪魔をして、赤音の姿を見失っていた今鳥は、背後から迫る赤音への反応が遅れた。


「なぁっ?」

「落ちろ!」


 紅蓮の拳が、怪鳥の背中を叩き潰した。


「■■■■■■■■■■■■■■■■■■!」


 怪鳥が奇声を発しながら、今鳥もろとも墜落していく。


 今鳥も絶叫しながら、愛鳥もろとも地面に叩きつけられて、情けない悲鳴を上げた。


 けど、今鳥の不幸は終わらない。


 墜落地点に待っていたのは、憤怒の形相を浮かべた百獣の王、獅子王狩奈だった。


「やめっ――」

「喝ッ!」


 腰を落とした鮮やかな正拳突きが、今鳥の腹を打ち抜いた。


 今鳥は血反吐を吐きながら仰向けに倒れ、手足を痙攣させた。


 あそこからの復活は、望めないだろう。




 一方で、茉莉たちのほうも、動きがあった。


 というか、凄いことになっていた。


 守里の指示で、乙姫と茉莉は風爆弾を避け続けながら、悪魔の作業を続けていた。


 乙姫の手からは、際限なく炎が迸り、その全てが、茉莉の手の中へと吸い込まれ、圧縮されていく。


 球状に圧縮されていく炎は、赤を通り越して金色のガラス玉のように輝き、激しく発光している。


 臨界ギリギリまで凝縮されつくした熱エネルギーは、今にも暴発してしまいそうだ。


 そんなものが、直径1メートルを超え、さらに成長していく。


「なっ、あっ、てめ、なんだそれ!?」


 敵の男子、柳の顔が、みるみる引き攣っていく。


「いやー、よく考えてみたら、空気を圧縮して爆弾にするってソレ、念力でもおんなじことできるっすよね。しかも、念力なら空気以外のものも。じゃあオトヒメちゃん、愛の共同作業で、トドメっすよ」

「今だけは賛成よ……くたばりなさい!」


 茉莉が、金色の熱球を放った。


 柳は、空に飛び上がり、そのまま限界まで上空へ逃げようとするも、間に合わなかった。


 花火のような轟音が響き渡り、空が黄金に輝いた。


「た~まや~っす」


 熱波は地上にも降り注ぎ、俺の頬を熱くなでていく。


 風の盾で出来る限り防御はしたんだろうけど、それでもぼろ雑巾のようになった柳が、あくまでもゆっくりと地面に落ちてくる。


 きっと、茉莉の念力だろう。




『ちっ、役立たず共が。やっぱり、王はオレ一人だなぁ!』

「……いや、お前は雑魚だよ」


 バトル漫画も真っ青の超常バトルに、俺は覚悟を決めた、というよりも、何を悩んでいたんだと、肩の荷が下りた気分だった。胸が軽い。


『あん? テメェ、そりゃどういう意味だ?』

「言葉のまんまだよ。お前は雑魚だ。今、ここで、俺に一方的に負けるんだ」


 語気を強めて言うと、剣崎は痛快そうに哄笑した。


『ギャハハハハハハハ! バカじゃねぇのか!? バケツのウォーターサーバーが何言っているんだよ!? この最強の岩石ボディに、水や氷が効くとでも思ってんのかよ!? このアラクネガーゴイルをどうにかしたけりゃ、対戦車装備級の火力を持ってくるんだな!』


 俺は、バスケットボールサイズの水弾を放った。

 温度を【150度】に設定して。


 水弾は、狙い過たず、剣崎の体が収納されているであろう、胸板部分を直撃した。


 途端に、風爆弾を凌駕する爆音が轟いて、剣崎の笑い声はかき消された。


 背中に、駆けつけてくる伊舞たちの驚愕が伝わってくる。


 胸板にひびの入ったガーゴイル越しに、剣崎も驚愕した。


『な、なんだ今のは!? テメッ、手りゅう弾でも隠し持っていたのか!?』

「理科の勉強だ。水蒸気爆発って知っているか?」

『はっ?』


「柳の言っていた通り、爆発ってのは空気が音速を越えて膨張して発生する衝撃波のことだ。同じように、水が急激に気化して音速を越えて膨張すると、水蒸気爆発っていうトンデモない衝撃波が生まれる。水蒸気爆発事故で、鉄筋製の工場一つが吹き飛んだこともあるぐらいだ」


『だからなんだっつんだ! テメェの能力は熱湯や水蒸気を作るだけ。作り終わった水の温度を後で上げるなんてできないはずだろ!』


「ああ。それが出来たらお湯の追い焚きし放題だ。だから俺は最初から沸点を越えた温度で水を作ったんだよ」


『あぁああああああああああメンドくせぇえええええ! だからなんなんだよ! 上から目線に説明すんじゃねぇ! そういう焦らしたりクイズ形式で喋る奴がオレは大嫌いなんだよ!』


 理性の欠片もないケダモノらしく、癇癪を起こす剣崎。


 一方で、俺は冷静に答えた。


「ようするに、【過冷却水】の逆だ。物質は状態変化を起こす融点や沸点に達しても、刺激がないと変化しない。何かに触れた途端個体になる零下の水、過冷却水みたいにな。同じように、100度を超えた【過熱水】は、何かに触れた途端、一瞬で気体に変化して、水蒸気爆発を起こす。少量なら理科の実験でも見る突沸で済むけど、量が増えればさっき言った通り、鉄筋製の工場もぶっ飛ばす最強の火力制圧兵器に変わる」


 剣崎の冷たい絶望は、ガーゴイル越しにも伝わってきた。


 厚い岩の奥から、狼狽した声が漏れる。


「ハ、ハッタリだ! バケツでウォーターサーバーのお前がそんなチート能力を持っているわけがない! もしもそんな能力があるなら、なんでオレにいいようにされていたんだ!? クラスの連中に馬鹿にされても、なんで黙っていたんだ!?」


 自分を守るために、剣崎は現実逃避をするようにしてまくしたてた。


 そんな、やられ役丸出しの剣崎に、俺は残酷な言葉を提示した。


「過ぎた武力は恐怖を、恐怖は疑念を生み、危険の芽として処理される。俺はソロ充だけどな、周りから恐れられるなら、馬鹿にされたほうがまだましだ。まして、危険人物として隔離されるなんてまっぴらだ。まっ、結局はこの島に隔離されたんだけどな。でも、もういいんだ。茉莉や乙姫、赤音の戦いぶりを見てわかったんだ。別に俺、言うほどチートじゃないじゃんてな。俺は危険人物とか思っちゃってあー恥ずかしい、まったくほんとに……黒歴史だよ!」


 俺は両手を前に突き出して、バスケットボール大の過熱水爆弾、ボイルドボムを連射した。


 ガーゴイルの巨体は、最高のマトだ。


 剣崎は四本の腕で胸部をガードするも、腕はみるみる砕けて用をなさなくなった。下半身で炸裂したボイルドボムは蜘蛛のような八本の脚を容赦なく粉砕して、剣崎は機動力を失った。


 もはや、ただの置物と化した剣崎は、何か叫んでいるようだった。


 でも、どんな絶叫も、爆音に押し流されてしまう。


 耳をつんざく爆音が、岩の砕ける破砕音が畑を支配して、自称王様の剣崎は、ついに完膚なきまでに敗北の瞬間を迎えた。


 ガーゴイルが木端微塵になり、中から剣崎が吹き飛んだ。


 剣崎は畑の上を転がり、言葉にならない声を呻きながら慌てふためき、視線を右往左往させていた。


 俺は反撃の手を止めて、今まで抑え込んでいた敵意を吐き出した。


「このド低能のクズが! とっとと失せろ!」

「ひぃいいいいいいいいいいいい!」


 剣崎が俺らとは反対側、山の方へ向かって走ると、いつの間にか立ち直った他のメンバー、三屋、柳、今鳥も、その背中を追うようにして逃げて行った。


 その背中が見えなくなると、俺はようやく緊張の糸を緩めた。


 伊舞たちへ振り返ると、俺はふざけて言った。


「見ての通り俺、結構強いんだよね。でも、もし俺がみんなに破廉恥なことをしようとしても、みんななら容赦なくぶっ飛ばせるよな?」

「当然、ボクのルベルは無敵だよ」

「エヘン、その時はマツリとオトヒメちゃんのラブマインストライクが火を噴くっすよ」

「変な技名つけんな!」

「でもボクはハニーならどんな破廉恥なこともOKだけどね。なんなら複数人同時もOKだよ」

「誘惑するなよ。俺がつけあがったらどうするんだ?」

「いいよ。ボクのこと愛してくれるなら、どれだけつけあがっても」


 赤音が俺にしなだれかかってきて、俺が顔を赤くしながら困っていると、みんな楽しそうに笑ってくれた。


 俺は、力を隠していても、結局は島流しにされてしまった。


 だけど、ここにいるみんなとなら、この島で楽しくやれる。


 俺はソロ充だけど、そう思えて、幸せだった。


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 次号のネタバレ!!!!! 逆から読んでね→ すまに●がちた崎剣


 本日も、この作品を読んでいただきありがとうございます。書いた作品を読んでもらえると嬉しいです。みなさんの応援のおかげで本作【立場逆転・島流されたらスクールカーストが崩壊しました】は、ラブコメランキングで見事、

 日刊2位 週刊3位 月間6位 フォロワー数2577 PV数23万 

 ★数887 ♥数3384を達成しました。

 カクヨムで投稿したなかでは一番人気で大感謝です。


 また、同じく美少女たちとの開拓ものとして、

【美少女テロリストたちにゲッツされました! 修学旅行中にハイジャック!?】

キャッチコピーは【夢の人質ライフ】

 というのも投稿しております。暇つぶしにでも読んでくれると嬉しいです。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る