第23話 囚われの姫君??
「俺はこいつらの仲間じゃない。うしろの子たちを見ればわかるだろう。俺は女子グループのメンバーだ」
「キミ女の子なの? おっぱいないけど?」
――おっぱいって。
冷たい口調に似つかわしくない単語に、やや戸惑いながら答えた。
「いや、俺は男だよ。女子グループに入れてもらっているっていうか、とにかく、ここの男子グループとは敵対関係、いや、一方的に俺らが襲われているんだ」
「なら、なんでここに来たの? やられる前にやろうってこと? ごめんね、ボクがぜぇんぶ倒しちゃった。殺してはいないから、トドメはどうぞ」
まるで、お菓子を食べるような気安さで語る彼女に背筋をゾクリとさせながら、俺は耳をそばだてた。
すると、倒れた男子たちの口から、くぐもった声が漏れている。
全員、命に別状はないらしい。
「俺らは戦いに来たんじゃない。ここに捕まっている女の子を助けに来たんだ。いや、助けてもらいに来たって言った方が正しいな。俺らの仲間が風邪を引いた。だから、治療系能力者の彼女に、治して欲しいんだ」
「その仲間ってキミの姉妹か恋人?」
「いや……俺と伊舞、あいつは、二日前にこの島で会ったばかりだ」
「付き合って三日目、浅い友情だね。それで命がけの襲撃をしたの? 戦力差、わかっているよね?」
彼女の言う通り、敵の本拠地に乗り込むということは、敵の全戦力から戦うリスクを負うということだ。
熱くなっていたとはいえ、たった六人で乗り込むのは、あまりにも無謀に見えるだろう。
でも、自分が間違っていたとは思いたくない。
「それともキミ、友情に過ごした時間は関係ないとかいう博愛主義者?」
やや軽蔑すら混じった口調に、俺は反論した。
「いや。俺は博愛主義者でも正義の味方でもないし滅私奉公が大嫌いな令和男子だよ。でも俺は、伊舞を助けたい。伊舞は、三日で助けたいって思わせてくれる奴だから。たぶん、ソロ充気取ってる俺の、初めての友達だと思うから」
「へぇ、LOVEなんだ」
なめるような声音に、俺は顔が熱くなった。
「からかうなよ。そういうんじゃない」
「でもたかが風邪だろ? 医療設備のないこの島じゃ命取りかもだけど、かもで自分の命を賭けるの?」
「もちろん、それだけじゃない。すぐに来たのは、治療系能力者が女子だってわかったからだ」
「どういうこと?」
何か、彼女の琴線に触れてしまったのか。
彼女は表情を冷まして、漂白された視線で俺を見据えてくる。
それでも、俺は怖じることなく、説明した。
「ここの男子たちは、女子に酷いことをする連中だ。すぐ近くで、誰かがなぶりものになっているって思ったら、凄く嫌な気持ちになった。無視したら、絶対後悔するから。だから」
長いだけで結局何が言いたいのかわからない、とりとめもない説明かもしれないけど、それが俺の本音だった。
すると、彼女は巨人の手を消してから組んでいた足を解いて、椅子から立ち上がった。
足が長いだけあり、背が高い。心愛と同じか、それ以上だ。
驚くほど細い腰を回して、メロンを思わせるほど大きなふたつのバストを揺らしながら、彼女はみるみる俺との距離を詰めていった。
「え? あ、お、おい……」
歩みに合わせて揺らめく純白の髪と弾む胸のあいだで視線を彷徨わせて、最後は真紅の瞳に魅入られて、俺は背筋を伸ばした固まった。
「キミ、能力は?」
「み、水や氷、熱湯を作る能力だけど」
「戦闘向きじゃないね。なのに、友達と女の子を助けるために熱血しちゃったんだ」
「そんな立派なもんじゃない。女子を見捨てた男になりたくなかっただけだ。保身だよ」
困っている人がいたら見捨てない、そんな聖人君子は、フィクションの存在だ。
「ふぅん、謙虚で飾らない性格なんだね。キミみたいな男子は初めてだ。超能力者だからかな? いや、それはないね、こいつらは、ボクを襲おうとしたし」
よく見れば、床に転がる男子たちは、みんな、ベルトがゆるんでいた。つまり、そういうことなんだろう。
「キミ、いいね。ボク好みだよ。何よりも、キミはボクの赤い瞳を見ても怖がらなかったし、ボクの能力を見てもなお、ボクに欲情した。試しに、ボクと付き合ってみない?」
「? 付き合うって……ていうか、欲情って――」
桜色のくちびるがキュッと弧を描いて、小悪魔的な笑みを作った。
「ボクのハニーになるってことだよ」
ひそめた甘い声が、しびれるように鼓膜から脳髄を愛撫していく。
俺は息を止めて、『欲情していない』という言葉を飲み込んだ。
とても、同年代とは思えない色香だった。
刹那、彼女はくちびるを尖らせた。
ちゅぱっと上下にはじける桃色がセクシーで、体の奥が熱くなった。
背後から、乙姫たちの小さな悲鳴が次々聞こえる。
「あぁ、あんた何してくれてんのよ!」
乙姫に掴まれて、強引に背後に引き寄せられた。
乙姫の慌てように、途端、彼女は無邪気に笑った。
「何って、エアキスだよ。あ、うしろからだと、本当にキスしているように見えちゃった? 赤くなって可愛いなぁ、キミも、彼も、どっちもね」
「え? あっ」
気づけば、俺の顔は恥ずかしいぐらい熱くなっていた。きっと、凄く赤くなっていることだろう。
最初の怪しげな美しさが嘘のように、彼女はくったくのない笑顔で、腰に手を当てた。
「うん、いいねキミら。ボクも女の子だし、キミらのグループに入れてくれるかな? キミにここまでさせる伊舞って子にも会いたいし。ね♪」
ね、で小首をかしげて、おねだりしてくる。
人間離れした美貌のせいだろうか。
普通ならどう考えてもあざとくて萎えるのに、彼女の仕草はどれもあまりに自然で、二次元のキャラのように、違和感がなかった。
「お、俺はいい、ぞ」
「よかった。じゃあこれからよろしくね。ボクは鬼島赤音(おにしまあかね)。能力はさっき見た通り。ボクは【ルベル】って呼んでいるよ。ラテン語で赤って意味なんだけど、キミの能力は?」
「特にないけど、水能力かな。みんなからはバケツって馬鹿にされていたけど」
「【バケツ】はオシャレじゃないよね。じゃあ、ボクがつけてあげる。【アクアリウス】は? ラテン語で、みずがめ座って意味だよ」
「みずがめ……まぁ、じっさい今、村で水瓶に水を入れる仕事しているけど」
「じゃあぴったりだね」
――水能力よりはいいか。音の響き事態はカッコイイし。
高校でバケツ呼ばわりされたときは凄い嫌だったけど、アクアリウスは嫌じゃない。
「わかったよ。じゃあこれからはアクアリウスってことで、てぇっ! 早く治療系能力者の子を探さないと!」
赤音のインパクトが強すぎて、すっかり忘れていた。
乙姫たちも、『あっ!?』と声を上げた。
俺は、男子たちに乱暴をされて、傷つき悲しみに暮れているであろう、薄幸の少女の姿を想像しながら、奥のドアに走った。
直後、ドアが爆ぜた。
ドアを蹴破る長い脚が床を踏みしめ、その姿態をあらわにした。
「話は聞かせてもらった。ワタシを助けに来てくれたらしいな」
赤音以上の長身にスイカ大の爆乳。
一目で鍛えていることがうかがえる引き締まった四肢。
頭の右側で無造作に束ねられたサイドテールのボリューム溢れる黒髪。
戦場生活が似合いそうな覇気みなぎる顔立ちに、眉一つ動かさずマチェットナイフで敵の首をはねそうな勇ましい眼差し。
薄幸の美少女ではなく、どこからどう見てもリアルアマゾネスな美女が、拳を固めた仁王立ちで吼えた。
「救援感謝する! ワタシは獅子王狩奈(ししおうかるな)! さぁ、患者の元へ案内してもらおうか!!」
――救援いる?
俺はもう、なにがなんだかわからなかった。
とりあえず、和美は謝らなくてもいい気がした。
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