第21話 信頼と実績のバスト
「違うんです……実は、わたし……欲しいものの場所がわかる探知系能力で、いわゆる、千里眼なんです……それで、治療系能力者を探知にかけたら、港の方角にいるみたいで……」
「そうか。よく教えてくれた」
――素材探しが上手かったのは、それでか。でも、なんで黙っていたんだろう? 別に怖がられるような能力でもないし。何か、嫌な想いでもあるのか? いや、今はそんなことを詮索している場合じゃない。
「とりあえず一歩前進したけど、問題はどう交渉するかだよな。もしも、女子をよこせなんて言われたら、呑むわけにはいかないぞ」
「あ、それはだいじょうぶだと思います。その治療系能力者さん、女の子みたいなので……」
「え!?」
その情報には、本気で驚いた。
「治療系能力者の男子で探知すると無反応で、治療系能力者の女子だと反応するので、間違いないと思います」
だって二日前、港から逃げ出した時、俺らは捕まっている女子がいないことを前提にしていた。
まだ三日目とはいえ、あんな連中のところに、女子が今まで一人で。
恐怖で凍り付くような想像が膨らんで、俺は息が詰まった。
「ちょっと待ちなさいよあんた」
ただでさえ怯えている和美に、乙姫が怒り心頭の様子で詰め寄った。
「港から逃げてきたとき、あたしら聞いたわよね? 逃げ遅れた子はいないか、探知系能力者はいないか。あの時、あんたが名乗り上げていたらその子はたった一人で置き去りにされなかったし、今頃ささっと伊舞を助けられたじゃない! なんで黙っていたのよ!?」
「オトヒメちゃん、たんまっす! 暴力はダメっすっておうわ!?」
抱き着くマツリを乱暴にふりほどく。
借金の取り立てに来た闇金もかくやという乙姫の迫力に、和美は涙を滲ませて、隣に立つ妹の和香の背に隠れてしまう。
「す、すいませぇん! だって、怖かったんです! 捕まっている子がいるってわかったら、助けに行こうとするんじゃないかって! それで、わたしと和香ちゃんも案内役に連れて行かれるんじゃないかって! 剣崎さんたちが怖くて、言い出せなくて、ずっと言わなきゃって、でも、じゃあなんて最初に言わなかったんだって聞かれるのが怖くて、ごめんなさいぃ!」
「お姉ちゃんを責めないでください!」
姉である和美を守るように、妹の和香が乙姫の前に立ちはだかった。でも、その足は震えている。
「お姉ちゃんは、ずっと悩んでいたんです! でも、怖くて、どうしようもなくて、それで、罪滅ぼしに少しでもみんなの役に立とうって」
「そういうことね。おかしいとは思っていたのよ。島流しに遭って不安なはずなのに、妹のあんたと離れ離れになって食料班に入ったり、探索でも素材探しでも妙に張り切っていたらしいし。全部、うしろめたかったからってわけね」
「すいませぇん!」
和美が泣きじゃくるのも意に介さず、乙姫は和香を押しのける。
これはマズイと、俺は乙姫の肩を掴んだ。
「待ってくれ乙姫」
「何よ恭平! 和美の肩持つ気!? そいつは自分の身、可愛さに仲間を見捨てたのよ!」
「そうかもしれない! だけど、苦しんでいたのは和美も同じだ」
俺の言葉に、乙姫は怪訝そうな顔をした。
「苦しむって……」
「乙姫、俺らは強い。どんな敵が来てもブチのめしてやれば済む。でも、和美はどうだ? 戦いになったら、和美の安全は人任せだ。強者が弱者に勇気を強要するのは、あまりに酷じゃないか?」
「そ、それは……」
乙姫が怯んだのを確認して、俺は彼女の眼に訴えかけた。
「怖くて辛くて苦しくて言い出せなくて、せめてもの罪滅ぼしにみんなの役に立とうと頑張って、でも、伊舞の、仲間のピンチに、こうして責められることを覚悟して、名乗り出てくれたんだ。俺は、剣崎や三郎と違って、立派な奴だと思うし、和美にお礼を言いたい」
和美を一瞥すると、彼女の震えは止まっていた。
「きょうへい、さん……」
「っ……」
その間に、乙姫が動いた。
俺の横を通り過ぎて、大股に和美との距離を詰める。
一瞬の緊張が走った次の瞬間、乙姫は、和美を抱きしめた。
「大きな声、出して悪かったわよ。あたし、この島に来て、戦って、活躍して、勘違いしていたわ……これが、力に溺れるってやつなのかな。反省する。それに、恭平の言う通りだわ。伊舞のために名乗り出てくれて、ありがとう。怖かったでしょ? でもお願い、港に残された子を助け出したら、一言でいいから謝ってあげて」
それを聞いた和美の眼から、今まで以上に大きな涙が溢れ出した。
「はい! いっぱい謝ります! 乙姫さん、ありがとうございます!」
乙姫と和美は抱き合い、そして和解した。
性格が正反対の二人が抱き合う姿を、俺はとても美しいと感じた。
感動すら覚える。
俺は両手に勇気を握りしめて、みんなに言った。
「よし、取り残された子の安否が心配だ。すぐに救出部隊を編成しよう。和美、和香、協力してくれるか?」
「「はい」」
「ありがとう。伊舞が倒れている今、俺らの戦闘要員は13人。全員で行けば村が空っぽになる。少数精鋭で行こう。電撃戦だ。俺、乙姫、茉莉、案内役の和美と和香の五人だ。速攻で助け出して、すぐに村に帰る。村が襲われたら、すぐに村を放棄して逃げて欲しい。あとは、俺らがなんとかする」
「待って下さい。なら、鑑定能力を持つ私も連れて行ってください。護身術の心得はありますし、私なら、要救助者の情報も得やすいです」
「いいのか? 向こうは50人。しかも三屋や剣崎クラスの戦闘能力者が他にもいるかもしれないんだぞ?」
「私は、その三屋と戦った女ですよ?」
「そうだったな。ありがとう守里」
危険な任務に、自ら志願してくれる彼女に感謝しながら、俺はみんなに呼びかけた。
「よし、じゃあ行くぞ、守里、乙姫、和美、和香、茉莉!」
茉莉は、体育座りの姿勢で、ごろんと横に転がり、背を向けていた。
「ふんだ、マツリは抱き着いても乱暴に振りほどかれたのに、ナゴミちゃんはオトヒメちゃんのほうから抱き着いてもらえるんすね」
――うっわぁぁぁ。スネてらっしゃる。
どうしようかと俺が頭を悩ませていると、心愛が、そっと茉莉に身を寄せた。
「茉莉ちゃん、作戦に成功したら、わたしの胸、さわってもいいから機嫌直して」
「何やってるっすかキョウヘイちゃん! 時間は待ってくれないっすよ!」
電光石火の早業で靴を履き、茉莉は庭先で凛々しく親指を立てていた。
――心愛のおっぱいすげぇ!?
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