第8話 モブ男は、犠牲になったのだ……

「みんな、ちょっと聞いてくれるかな」


 雑談が途切れたタイミングで、俺らの注目を集めてから、伊舞は真面目な態度で説明し始めた。


「明日からの【開拓方針】を提案したいんだけど、私は、超能力に頼らず生活できるのを目指したい」


 聞きなれない単語に、みんなはますます話に聞き入った。


「みんなが持つ超能力は凄く便利だし、みんなの超能力を使えば、島での暮らしは快適なものになると思う。でも、それが私たちの強みであると同時に、弱みでもあると思うの。昼間に話した冷蔵庫がいい例だよ」


 伊舞は、乙姫を一瞥した。


「乙姫がいれば、ものは冷やせるけど、かと言って、乙姫に24時間冷蔵室にいてもらうわけにはいかない。超能力の弱点は、本人がその場にいないといけないこと。それに、超能力に頼り切った生活だと、本人の身に何かあった途端に破綻しちゃう。だから、水は恭平に出してもらいつつ、井戸を掘るとか、誰か個人の超能力に頼りすぎないよう、この村と島を開拓する必要があると思うの」


 伊舞の話が一区切りついたところで、俺も彼女の話を補強することにした。


「確かに、俺がケガや病気で死んだ時のために、貯水槽に一か月分の水を貯めても、水質なんてすぐ悪くなるしな」


 みんなは、俺の話もきちんと聞いてくれた。


「誰かに何かがあっても、【不便になる】程度にとどまるよう、対策は必要だ。生活が落ち着いたら、俺ら一人一人の自給自足能力を高めていこう。農業や日曜大工に詳しい人がいたら、教えてくれると助かる」


 すると、平和島姉妹が手を挙げてくれた。


「あ、わたしと和香ちゃん、農業高校出身です」

「和美お姉ちゃんは農業科で、わたしは農業土木科だから、大工ってわけじゃないですけど、日曜大工なら」


 伊舞が笑顔になる。


「じゃあ、生活基盤が整ったらお願い。ただ、みんなに強要はしないよ。農業とか、大工仕事とか、嫌がる人に無理やりやらせても、絶対いい方向には向かないし。ただ、私個人はそういう風に動くし、みんなにそうしてくれることを望むって話なんだけど、どうかな?」


 伊舞の呼びかけに、みんなは頷き合ったり、肯定的な反応を示してくれた。


 ――上手いな。


 最初からだけど、伊舞は言い方が上手い。

 要求は同じでも、言い方ひとつで印象はだいぶ変わる。

 伊舞は、命令ではなく、必ずお願いや提案という形を取る。


 自分を持ち上げず、必ず相手を持ち上げるし、みんなの問題、みんなのため、こうしたほうがみんなが助かる。


 そうした話の持っていき方をする。

 これが、話術、というものだろう。

 ソロ充で常に自己完結してきた俺には、ちょっとハードルが高い。


 俺は山菜を食べ終えると、皿とフォークを置いて立ち上がった。


「ご馳走様、じゃあ、俺と三郎は村はずれの廃屋で寝るからこれで」

「え!? 今夜はみんなで身を寄せ合ってしっぽりとじゃないのか!?」

「乙姫、燃やしていいぞ」

「言われなくても」

「ノォオオオオオオオオオ!」


 乙姫が作り上げた炎の絨毯の上で三郎が踊り、その姿に茉莉がテンションを上げていると、伊舞が尋ねてきた。


「どうして? せっかく家を直したのに」

「どうしてって、男はできるだけ遠くにいたほうがみんなも安心だろ?」


 みんなには目もくれず、真っ直ぐ、伊舞だけを見つめて言った。


 こんなこと、本人に聞かれたからって「そうだ」と言えるわけもない。「そんなことないよ」としか言えない答えを問いは、脅迫と同じだ。


 だから、俺から自発的に出て行く。


「言っておくけど、これは冤罪を防ぐための保身行為だから、気遣いは無用だ。じゃ、そういうわけで」

「待って」


 少し強引に、話を切るようにして俺は歩き出すも、手首を掴まれてしまう。


 伊舞は、少し怒ったような、心配そうな、複雑な表情だった。


「そういうの、やめようよ。そりゃ、生活が整ったら男部屋女部屋みたいに分ける必要はあると思うけど……でも、恭平は違うでしょ? 恭平は、真っ先に剣崎たちと戦ってくれたし。私は、恭平を性犯罪者予備軍みたいに扱いたくない」


「う~ん、気持ちは嬉しいんだけど、でも実際どうするんだ? 直した家は二軒。25、6人ずつ寝るとしても、場所足りないだろ? 最低限部屋は分けるべきだし、俺と三郎のためだけに一部屋使う余裕なんてあるのか?」


「それは……」

「あ、ならマツリはキョウヘイちゃんと一緒に寝るっす、むしろ寝たいっす!」

『え!?』


 みんなの声がシンクロする中、茉莉は興奮しながら語り始めた。


「南国の島で男子と同じ部屋で一夜を過ごす! これは青春ポイント高いっすよ! クラスの女子の誰もが手にしていない青春道を、マツリは駆け抜けるっす! というわけでキョウヘイちゃん! 今夜はマツリに恥ずかしい秘密を全て晒すっす!」


「なんで俺が一方的に暴露するんだよ!?」

「え!? つまり、マツリの恥ずかしい秘密も知りたいと!? キョ、キョウヘイちゃんが望むなら……アレのサイズを……教えてあげるっす……よ?」

「女子がそういうことを言うんじゃありません」

「アウチ」

 頭を優しく叩くふりをして、寸止めした。


 けど、茉莉はノリよく叩かれたふりをしてくれた。


 すると、亜麻髪の乙女である守里が、ビジネスライクな口調で言った。


「私も、防犯の都合上、恭平さんは我々と一緒に寝るべきだと判断します」


 意外な人物の介入に、みんなの視線が集まる。


「今夜、剣崎健司やその一派がこの村を訪れる可能性は否定できません。男性用の下着を干すと泥棒除けになるという話もありますし、男性そのものである恭平さんがいてくだされば、これ以上ない防犯効果があるでしょう」


 酷く合理的な理由ではあるものの、俺を信頼していることを前提とした提案は、素直に嬉しかった。


 守里の理屈に、他の女子も顔色が変わった。


 乙姫が提案した。

「じゃあ恭平と一緒でもいい人が同じ部屋で寝ればいいんじゃない? あたしはいい男子除けになりそうだから一緒でもいいけど」

「私もいいよ」

「わ、わたしもいいよ」

「わた、わたしも、恭平さんと一緒がいいです」

 乙姫に続いて、伊舞、和香、和美も手を挙げた。


 そして三郎が、炎の絨毯からジャンプしてきた。

「よっしゃ! じゃあこれで俺と恭平を合わせて7人部屋だな!」


「え、あんたはダメに決まってるじゃん」

「なんでだよ! 俺だって港で誰にも手を出さなかったじゃないか!」

「あんたはただのビビリでしょ」

「はうっ」


 乙姫の辛辣な一言に三郎は撃沈。


 その場に笑いが巻き起こった。


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登場人物 まとめ

・朝倉恭平(あさくら・きょうへい) 

 17歳 一人称俺 二人称お前

 能力:水(H2O)の生成と操作。温度は自由だが、100度超えが限界。


・神原伊舞(かんばら・いぶ) 

 17歳 金髪ハーフアップ 一人称私 二人称貴方

 能力:物質の分解と再構築。


・竜宮院乙姫(りゅうぐういん・おとひめ)

 17歳 赤髪ストレート 一人称あたし 二人称あんた

 能力:熱エネルギーの操作。炎と冷気を生成し操作する。


・舞薗茉莉(まいぞの・まつり) 

 17歳 茶髪ツーサイドアップ 一人称マツリ 二人称?

 能力:念力


・平和島和美(へいわじま・なごみ)双子姉 栗毛ワンサイドアップ右 能力:マップ

・平和島和香(へいわじま・のどか)双子妹 栗毛ワンサイドアップ左 能力:探知

 16歳 一人称わたし 二人称あなた


・財前守里(ざいぜん・まつり)

 18歳 亜麻色髪シニョン 一人称私 二人称貴方

 能力:鑑定


・山田本三郎(やまだもと・さぶろう)

 17歳 一人称:俺 二人称:お前 

 能力:環境適応。環境に合わせて肉体が変化する。 


・剣崎健司(けんざき・けんじ) 

 17歳 一人称オレ 二人称テメェ

 能力:岩石の生成と操作。岩石をまとい、岩石で作ったゴーレムを中から操作できる。

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