第4話 コイツを仲間にして本当によかったのだろうか?
「このまま俺らは村、剣崎たちは港で住み分けられたらいいけど、剣崎はあの性格だからな。十中八九、ちょっかいを出してくるだろうな」
「その時は、あたしがブチのめしてやるわよ」
竜宮院は、頼もしい顔で意気込み、肘を曲げて拳を掲げてくれた。
「私も、前線で戦うわ」
「ヒメちゃんとイブちゃんが戦うならマツリも戦うっす。それでイブちゃんにお願いしたいんすけど、マツリの念力で飛ばす弾丸的なものを作って欲しいっす」
「いいよ。短い釘とかなら、敵に拾われてもそんなに怖くないしね」
「当然、俺も戦う」
「え? 朝倉が?」
山田本が、意外そうな顔をした。
「でもお前の攻撃手段って熱湯かけるぐらいしかないじゃん」
「他人に言われるとすげぇショボく感じるな。じゃあちょっと俺の能力について説明するか」
そう言って、俺はみんなに聞こえるよう、少し声を大きくした。
「警戒されたくないから、高校じゃただ水を出すだけの蛇口君としてふるまっていたけど、これでも結構戦えるんだよ。消防隊の使っているホースの水圧で人間がぶっ飛ぶ話は聞いたことないか? お湯をぶっかけることもだけど、相手を殺さない程度に倒すのは得意なんだ。それに、100度の熱湯を浴びたら大やけどだぜ?」
女子たちの間に、感嘆の声が漏れた。
「あと、氷を出せるって言ったけど、過冷却水って言って、零下の水も出せる」
聞きなれない単語に、みんなはまばたきをした。
「ようするに、こういうことだ」
俺は立ち上がり、みんなの前で右人差し指から、チョロチョロと水を落とした。
それを左手の平で受け止めると、左手から氷が昇るようにして水が凍り、氷柱が出来上がった。
「え? なにあれ!?」
「すご!?」
「手品!?」
「水ってのは零下になっても、振動を与えないと固まらないんだよ」
驚嘆する女子たちに説明した。
「だから、能力で最初から零下の水として作ればこの通り、触れた者を氷漬けにする魔法水の出来上がりだ。氷系能力との違いは、俺の意思に関係なく、何かが触れたらオートで固まる点だな。水のように高速で変幻自在に動かしつつ、相手に触れたら凍る。拘束系としては優秀だし、力加減を間違って人を殺すこともない。誰かが死んで弔い合戦になれば泥沼だ。戦闘面は俺が中心になるよ。みんなだって、男子たちを殺したくはないだろ?」
何人かの女子は、むしろ死ね、みたいな顔をしていたけど、とりあえずは納得してくれた。
本当は、殺傷能力抜群の奥の手が一つあるのだけれど、その存在は伏せた。
教えれば、俺自身が女子から警戒されてしまう。
能力の暴露大会に反対したのは、みんなには悪いけど保身のためでもある。
「あ、実はあたし、斬撃使える」
「わたしは、衝撃を中に通せる」
「戦闘系じゃないけど、加速能力だよ」
俺らに続いて、何人かの女子が手を挙げてくれる。
彼女たちには前に出てきてもらって、神原がみんなの名前と能力をスマホにまとめ始めた。
「私たちを含めて戦える人は14人ね。うん、じゃあみんな、安全保障の観点から、基本的にはこの中の誰かと一緒に行動するようにして。家も、5人1世帯で10軒ぐらい家直す予定なんだけど、一世帯に最低一人、戦える人がいるように世帯編成するけどいーい」
名乗り上げた女子も、他のみんなも、神原の決定に快く頷いた。
もう、すっかり俺らのリーダーである。
前、風刺画でみんなを引っ張るのがリーダー、みんなを支配するのがボス、というのを見たことがある。
なるほど、剣崎はボスだけど、神原は本当にリーダーだな。
「じゃあ、早速行動に移ろうか。まずはみんなの生活規範を整えないと。みんな、さっきのリストを見て」
俺らは、エアドロップでスマホに送られた、必要な物リストに視線を落とした。
たいていの物は、神原、竜宮院、俺の三人がいれば、どうにかなるものばかりだ。
「どれもみんなの能力を駆使すればなんとかなるけど、問題は塩と食料だよ。だから、三つのグループに分けて仕事をして欲しいの。私と一緒に海までいく塩班、森や山に食料を探しに行く食料班、村の中を探索する村班だよ」
神原の指示に、竜宮院が口を挟んだ。
「待ってよ伊舞。海って言うけど、港には男子たちがいるでしょ? それに伊舞、この家を直したせいでしばらく能力使えないんでしょ?」
「少し時間はかかるけど、質量の小さいものとか、海水から塩を分離するぐらいはなんとかなるよ。海は、港から離れた場所に行こうか」
走って十数分のところに海があるのに、わざわざ遠くの海に行かないといけないとか、剣崎が憎すぎる。
「塩を運ぶだけだから私一人でもいいんだけど、剣崎たちが海岸沿いに歩いて島を探索していたら鉢合わせしちゃうから、戦える人についてきて貰えるかな? 朝倉、頼める?」
「いいぞ」
――港の件があったばかりなのに、男子と一緒にいようとするなんて、信頼されたもんだ。
神原からの信頼を実感しつつも、俺は他の女子に対して防衛線を張る。
後で、『神原さんと二人きりで何かしたんじゃ』なんて噂されたらたまったもんじゃない。
「二人じゃ戦力不足だし、竜宮院も来てくれるか?」
「任せなさい」
「イブちゃんとヒメちゃんが行くならマツリもお供するっす。マツリなら念力で荷物持ちできるし、お塩いっぱい持って帰るっす」
――よし、戦闘女子3人に俺1人なら、あとで変な噂も立たないだろう。
「でもイブちゃん、海までの道、わかるっすか?」
「それが問題なんだよね。方位磁針は持ってきているから、獣道でも同じ方角に進めばなんとかならないかな?」
「あのっ」
神原が困っていると、俺が助けた双子姉妹のうち、栗毛を左ワンサイドアップにした妹さんが立ち上がった。
自信のなさそうな顔をうつむかせつつも、彼女はためらいがちに言った。
「わたし妹の平和島和香(へいわじまのどか)って言います。わたし、マップ能力って言えばいいのかな、頭の中に周りの地図が浮かぶの。わたしなら、道案内、できると思う」
「ならお願いするわ。これで、塩班は五人ね。えーっと、お姉さんのほうも来る?」
神原が尋ねると、双子姉は座ったまま、首を横に振った。
「あ、平和島和美(へいわじまなごみ)です。わたしは山菜探すの得意だから、食料班に回してください」
――意外だな。妹さん以上に臆病そうなのに、別行動を選ぶなんて。
それからも、何人かの女子が自分の能力をカミングアウトして、塩班、食料班、村班に分かれた。
塩班は、俺、神原伊舞、竜宮院乙姫、舞薗茉莉、平和島和香の五人。
食料班は、戦闘系三人と、体力に自信のある女子たち。
村班は、戦闘系七人と、体力にあまり自信のない女子たちで構成されている。
剣崎たちとの遭遇しないであろう食料班にも戦闘系がいるのは、クマなどの猛獣と遭遇した場合を考えてのことだ。
「じゃあ、行きましょうか。それと村班のみんな、もしも剣崎たちが攻めてきたら、すぐ森に逃げてね。大事なのはみんなの命で村じゃないんだから」
「安心しろ! 神原たちがいない間、この村のおにゃの子たちは、この山田本三郎様がばっちり守ってやるぜ。ぐへへ」
「伊舞、やっぱりこのバカも塩班にしましょう。安全保障のために」
「そうだね」
「はぁっ!? フザケんじゃねぇぞ! 俺みたいな知力も体力もなければ超能力も貧弱なクソ無能野郎を海に連れて行ってなんの役に立つんだよ!?」
「自慢すんな!」
「ひぃっ冷たぁぁくない! はっはー、俺の環境適応能力で血液は不凍液に変化済みだぜ」
「じゃあ燃やすわね」
「あっぢゃぁあああああああああ!」
――こいつを仲間にしたのは失敗だったかな?
俺は、自分の判断力に一抹の不安を覚えた。
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