第3話 島流し先は2・5次元美少女ハーレム
53人分の靴で玄関をいっぱいにしながら家の中に入ると、早くも一階部分に、教室ぐらいの広さがある居間を見つけた。
俺と神原、竜宮院でちゃぶ台を片付けると、みんながどやどやと入ってくる。
それでも全員は入りきれず縁側にはみ出したので、ふすまを外して、隣の部屋と繋げた。
すると、一気に広さは1・5倍になり、50人全員が畳にお尻を下ろせた。
――それにしても、こうして見ると凄い光景だな。
部屋には51人の女子がいるわけだけど、例外なく、全員美少女だった。
近年、プロアスリート男子にモテ顔が多い理由を研究したアメリカの大学が、運動神経遺伝子が男性の顔に影響を与えることを証明した。
同じように、超能力遺伝子は、女子の容姿に影響を与えるらしい。
ハーフの神原に限らず、全員手足が長くて顔立ちが整い、目鼻立ちがはっきりとしている。
まるで、アイドルのオーディション会場に迷い込んでしまったような気分になる。
でも、ハーレムとか、不埒なことは一切考えなかった。
むしろ、トラブルの予感に不安さえ感じる。
俺は、女子たちからできる限り距離を取るために、隣の部屋の角に腰を下ろした。
山田本は女子たちの中に混ざって座ろうとして、竜宮院に冷やされていた。
山田本を縁側に追いやってから、竜宮院は俺のすぐ側にお尻を下ろしてきた。
そして神原も、俺のすぐ隣に佇んだ。
――なにこれ? 俺らはトリオで決定なのか?
俺が見上げると、神原は手を叩いてみんなの注目を集めた。
「じゃあ、これからの予定をみんなで話し合っていこうか。て言っても、やることは決まっているんだけどね」
腰に手を当てて、神原は息を吐いた。
「この島には電気もガスも水道も通っていないし、生活物資のある倉庫は、もう剣崎たちに占拠されている。だから、まずは生活に必要なものをそろえないと。サバイバル的には【水】【住居】【食料】、家庭科的には【衣】【食】【住】ってやつだね」
神原の声は、よく通るけっこうな美声だった。
まるで、声優やアナウンサーの声を聴いているようで、引き込まれる。
「けど、流石に現代人の私たちは、水と食料があればいいってわけにはいかないよね。もっと細かく、具体的に決めないと。それから、それぞれをどうやって手に入れるか考えよ。みんな、何が欲しい?」
尋ねながら、神原はポケットからスマホを取り出し、画面をタップした。
この島は圏外だから、スマホの通信機能は使えない。
でも、他の便利なアプリは使えるので俺も持ってきている。
勿論、島に電気がないことは聞いていたので、最新の太陽電池式の機種に買い替え済みだ。
そうして、神原はみんなの案を次々メモするが、意外にもすぐに終わってしまった。欲しいものがないのではなく、何が必要なのか、みんな思いつかない様子だ。
神原は俺に、冷静な視線を投げてきた。
「朝倉、何か見落としはないかな?」
どうして俺に? とは思うも、信頼の証だろうと、素直に受け取った。
「そうだな。パッとは思いつかないけど、朝起きてからの行動を細かく振り返ればいいんじゃないか? まず、布団から起きるよな……寝具って書いたか?」
「忘れてた」
みんなも「あ」という顔をした。
「それから歯を磨いて顔を洗ってといきたいけど、みんなが持ってきている歯ブラシや歯磨き粉だって永遠に使えるわけじゃないから、それも必要だろ?」
「ぶっちゃけ男子共を追い払って倉庫を奪取しちゃえば?」
拳を固める竜宮院を、俺は手で制した。
「それはやめたほうがいい。戦闘系能力者同士の全面戦争になれば、確実に死人が出る。どちらに出ても、みんなの中に一生消えないしこりが残る」
「そんなの伊舞の能力で銃とか作れば降伏してくれるんじゃない?」
「武器は奪われる。奪われれば、俺らはどこから狙撃されるかわからない恐怖を抱えて生活することになる。無人島に銃はトラブルの元だ。銃のせいで遭難者同士が殺し合ったアナタハン島の悲劇は御免だよ。それに、剣崎健司とは戦わない方がいい。あいつはマジで強いからな」
「何あんた、もしかしてあいつのこと知ってんの? いや、あたしもネットでは知っているけど」
目をぱちくりさせながら、竜宮院は小首をかしげた。
勇ましい美人だけど、そうした表情には、不思議な可愛さがあった。
でも、剣崎のことを思い出すと、すぐに嫌な気持ちが胸に広がった。
「……俺とあいつ、同級生なんだよ。あいつの能力は間近で何度も見ている。岩石系能力者で、下手な金属よりも頑丈な堅い岩盤をまとって化物に変身して戦うんだ。どんな攻撃も一切効かないし、なのに向こうの攻撃は一撃でも喰らえばミンチだ。まぁ、この中に遠距離から戦車もぶっ潰せるってチートがいるなら話は別だけど?」
竜宮院が歯噛みするのを確認してから、みんなの顔を見回した。
流石に、そこまでの猛者はいないらしい。
気まずい沈黙が、辺りに流れた。
その沈黙を、神原が優しく開いた。
「まぁまぁ、歯ブラシと歯磨き粉なら、私の能力で作れるから。歯磨き粉は、材料不足でいいの作れないかもしれないけど。それで朝倉、他は何がいるかな?」
軌道修正してくれたことを神原に感謝しつつ、俺は話を続けた。
五分後。
必要なものをあらかた出し終えると、神原はそれらに優先順位をつけて並べ替えてから、俺ら全員にエアドロップ送信してくれた。
この島はスマホの電波が届かない圏外だ。
けれど、サーバーを通さない、近距離デバイス同士で直接データをやり取りするエアドロップなら、圏外でもこの場にいる全員に、データを送れる。
その結果が、これだ。
【水】朝倉の能力で出せる。神原の能力で井戸を掘る。
【住居】神原の能力で廃屋を直す。
【食料】皆で島を探索。
【塩】神原の能力で海水から作る。
【火】竜宮院の能力で作る。
【食器】【調理器具】【かまど】神原の能力で作る。
【上下水道】【トイレ】神原の能力で作る。
【紙】植物、できれば麻か青苧から神原の能力で作る。
【ペン】植物から神原の能力で鉛筆を作る。
【寝具】【着る物】植物、できれば麻か綿から神原の能力で作る。
「他に何か、忘れているものある? もしくは、自分の能力ならもっと良くできるものとか」
「あ、食料を保存する冷蔵庫が欲しいっす」
茶髪をツーサイドアップにまとめた女子が、びしっと神原と竜宮院を指さした。
「でもこれはイブちゃんが倉庫作ってヒメちゃんが中を冷やせば解決っすよね」
「いや、それだとあたし、一日中そこにいなきゃダメじゃん。どんな青春よ!」
竜宮院がジト目で犬歯を剥き出しにして憤慨するので、俺はなだめた。
「まぁまぁ、それなら俺の能力でなんとかなるから。神原が地下室を作って、竜宮院が部屋の温度を限界まで下げてから、俺が壁を分厚い氷で覆って氷室にするよ。これなら数十日は持つと思うし」
「お、それいいっすね。キョウヘイちゃん冴えてるっすよ」
両手でハートを作りながら、バチンとウィンクを飛ばされた。
――男子にちゃんづけかよ……。
恥ずかしい反面、彼女のようなムードメーカーは、無人島生活には欠かせない。
未来への希望がないここでの生活では、いつ誰が精神疾患を発病してもおかしくない。
けど、彼女のように明るい子がいれば、グループ全体の空気も明るくなるだろう。
だから、俺も乗っかっておいた。
「おほめに預かり光栄だよ。ところで、最近のハートって人差し指と親指をクロスさせて片手で作るもんじゃないのか?」
「いやいや、マツリのラブはそんな小さなもんじゃ表現できないっすよ。できれば両腕でこう、て、相手がいないと半分ハートの失恋マークっすよ!」
誰もいない横の空間に向かって両手を伸ばして、ハートの右半分を作ってから、一人で笑い始めた。
――明るいというか、ハイテンションだな。
差別されることの多い超能力者には、珍しいタイプだ。
「ところでマツリってなんだ?」
「マツリはマツリの名前っすよ。舞薗茉莉(まいぞのまつり)、高校二年生で能力は念力。ていうかせっかくだしみんな自己紹介するっす。そんで能力をつまびらかにしてこの難局を乗り切るんす!」
「いや、それは……」
舞薗が盛り上がる一方で、神原は難色を示した。
助け船を出すように、俺は口を挟んだ。
「自己紹介はいいけど、能力の暴露大会はやめとこうぜ」
「え~、なんでっすか~?」
「こんなご時世だからな、みんな能力のせいで嫌な思いをしているし、自分の能力を隠したい人もいるだろ」
だから、個人的には能力を強制的に告白するような流れは作りたくない。
「俺としては、みんなの能力はこれから生活していく中で、自然と知り合っていけばいいと思う。でも、もしも戦闘系の能力者がいたら、素直に告白して欲しい。それが、必要な物リストの最後、【安全保障】の要だからな」
安全保障、その一言で、みんなの顔に動揺が走った。
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