第二話「鬼のような魔女」
まるで見せしめのように、先頭に立っていたインプを殴り飛ばしたレイラ。
しかし彼女は落ち着いていた。
「別に反抗してもいいけど……、痛い目見るのはあんた達だからね?」
と、そこへ
レイラの背後を取っていたインプが槍をまっすぐ向け、走りこんだ。
魔女の背後を、鈍く光る穂先が襲う。
「……ギィヤァ!」
声に気づき、振り向くレイラ。
「自分から声で居場所を知らせるなんて……、ほんと、頭が悪いのね!」
レイラは右足を引き、そこに体重を預けた。
そのまま右足を軸にしてぐるりと体を回転させると、振り向きざまに左足を大きく後ろに振り回した。
インプの槍と、魔女の蹴りが交錯する。
槍がレイラの脇腹を掠めた。
反対にレイラの蹴りは、インプの横っ面へと突き刺さっていた。
炸裂音とともにインプは大きく吹き飛ばされ、そのまま岩面にたたきつけられた。
辺りには動揺が広がっていた。
「ギ、ギェ……?」
目の前の光景に怯み、後ずさるインプ達。
連携は乱れ、レイラたちを囲んでいた輪が徐々に広がっていく。
困惑が焦りとなり、焦りが恐怖を招く。
先ほどまで勝ち誇った笑みを浮かべていた集団は恐怖に支配され、狩られるものへ成り下がってしまっていた
レイラが槍を掠めた脇腹をさする。
「いてて……、人の畑を荒らしといて、私にこんな傷までつけるなんて……。あんたらほんとに許さないから!」
そう言うやいなや、こぶしを握り締めて、レイラは群れに突っ込んだ。
それは、まさしく鬼ともいうべき恐ろしい形相だった。
パァン!
――ギィヤァ!
拳を打ち込む度、小さな炸裂音と、断末魔が響く。
恐怖で統率を失った集団は散り散りになって、逃げ惑った。
しかし、黒い影がすぐ後ろから彼らを追い立てる。
「逃がすか! 荒らされた野菜の恨み、その身で味わえぇ!」
もはや彼女は、手の付けられなくなった猛獣のようだった。
「やっぱあいつ……、怒らせると怖いな……」
炸裂音が響くその光景を、カーポは身震いして見つめていた。
*
魔女が、肩を上下させながら荒い息を立てる。
僅かな時間の間に、そこにはインプが大量に横たわる、悲惨な光景に代わっていた。
「ギ、ギギ……」
最後の一匹が足をガタガタを震わせながら、魔女と対峙する。
「あんたで最後か……。さあ、誓いなさい。畑には二度と立ち入らないって!」
一歩、また一歩と近づくレイラ。
縮こまったインプに、魔女の影が落ちる。
「ギ……、ギ……」
「誓え!」
「ギェピー!」
しかし彼は、手に持った武器を捨てて一目散に走り去った。
「あ、待ちなさい、こら!」
慌てて追いかけようとするレイラを、カーポが制止する。
「ちょっと待てよ、まずは治療が先だ! 傷口を見せて!」
「うぐぐ……、仕方ない。いつつ……。」
レイラは、脇腹に走る鈍い痛みを思い出し、しぶしぶカーポの言葉に従い、その場に座った。
カーポが魔力を練る。丸っこい手のひらに、緑色の光が集まる。
「もー、カーポは過保護なんだって!」
「レイラはもっと、自分の体を大事にしなよ! そんなんじゃ、体がいくつあっても足りやしない。」
そうした小競り合いのうちにも、傷がみるみるふさがっていく
カーポは治療の術を得意としていた。
「はい、終わり。レイラは魔女なのに、身一つで危険な戦い方するんだから、もっと慎重に戦わなくちゃ」
「……魔女なのに、ね」
不意に、レイラが表情に影が落ちた。
「レイラ……?」
「ううん、なんでもない。ま、治療ありがと! さて、もう畑を荒らしたいなんて思わないように、しっかり懲らしめなきゃね!」
そう言って彼女は笑って立ち上がり、最後の一匹が逃げていった方角へと向かった。
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