第155話「ダンジョン監理官」

「では領主のダンジョン監理部に報告しましょう」


 とサラが言った。

 ダンジョン監理部か、たしか帝国には設置されてないって設定なんだよな。


「王国にはそんなものがあるのか」


 と言うのが正解だろう。

 

「帝国にはないのですか?」


 サラもティアも驚いて目を丸くする。


「わりといい加減なところあるからな、うちの国」


 苦笑したのは本心だった。


 きっちりしてるのに敗北して滅びるのはおかしい、みたいな製作者の価値観でもあったのかもしれないが。


「意外ですね。大国ほどシステムがしっかりしているものだと」


 とサラは本音をのぞかせる。


 システムが整ってないのをマンパワーで無理やり何とかしてる感じが強いんだよな、帝国は。


 だから人材が腐敗しはじめたら一気にガタが来るというか。

 現状そこまで話すのはちょっと危険か?


「国ごとの違い、もしかしたら俺たちが思っているより多いのかもしれないな」


「たしかにありえると思います」


 俺の言葉にサラは力強くうなずく。

 彼女にしては食いつきがいい気がする。


 国家に関することに興味があるのだろう。


「二人とも監理官に書類出さなきゃ、だよ?」


 ティアが遠慮がちに、それでいてすこし困った顔で言った。


「そうでした」


 サラは頬を若干赤くしながら咳払いする。

 

「わたしたちが提出する予定でしたが、よければ同行しますか?」


 と彼女は俺たちに訊く。

 

「行ってみたい」


 俺は即答する。


 地方の、それも不人気ダンジョンを攻略したからと言って、領主に会えるわけじゃなかった。


 単に一枚の紙切れを詰め所の兵士に手渡しただけで終わる。


「拍子抜けした?」


 とティアが訊くが首を横に振った。


「いきなり領主に会えるほうがびっくりだよ」


 いくらティアとサラの名前があっても、事前予約なしに会えるとは思えない。

 

「まあそうだよね」

 

 ティアは割り切った顔で答える。


「大事なのは名前を覚えてもらうことですよ。領主やその側近となれば、書類一枚にしか書かれてない名前や単語を覚えるのも仕事ですから」


 とサラが言う。

 彼女は戦術的価値がある行いだと考えているようだ。


 俺も同感である。


「ここレスター侯爵領には他にも不人気ダンジョンがあるので、そこにも行ってみようかと思いますが」


 とサラは道を歩きながら言った。

 

「いいんじゃないか」


 俺は賛成する。


 レスター侯爵なら複数の不人気ダンジョンをクリアし、報告していれば確実に名前を覚えてくれるだろう。


 初回踏破ボーナスももらえていいことだらけだと言える。

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