第106話「聖騎士カレン」

 その翌日、サラに渡されていたアイテム【通信水晶】が光を放ったので、手に触れてみる。


「あなたの都合さえよければ、明日ダンジョンに行きませんか? 場所は『古の塔』の予定です」


「問題ないよ」


 と俺は答えた。


 帝国の関係者は一回俺に会いに来て話を聞いたが、それ以降来訪する予定がない。


 同じく学園のクラスメートたちも一回顔を見せに来ただけで、それ以上何もなかった。


 本当は何の予定もないことこそ問題で、もっと積極的に顔つなぎと人脈作りに励むべきなんだろう。


 だが、力がない俺が今人脈作りをやっても、たかが知れているはずだ。

 人脈づくりなら強くなってからでも遅くはない。


 原作知識のおかげで誰が勝つのか知っていて、勝ち馬に乗りやすいのだから戦いようはあるのだった。



 翌日、待ち合わせ場所に指定された王都の西門を出たところに、俺はジーナを連れて到着する。


 すこし時間がたってから三人の女性(年齢的には全員まだ少女)が、早歩きでやってきた。


「ご、ごめんなさい」


 俺を見て謝ったのはティアで残り二人は、へえという顔を一瞬だけ浮かべる。

 帝国皇子が待ち合わせ時間より早めに来るとは思っていなかったか。


「お待たせして申し訳ありません」


「気にしないでくれ。ちょうど今ついたところだ」


 これは気遣いじゃなくて単なる事実なのだが、三人はそう解釈しなかったらしく恐縮している。


 もっともティア以外の二人は礼儀の範疇だと思うが。


「ところでそちらの女性を紹介してもらえるかな」


 君が話に聞いてる「カレンさんかな?」なんて話しかけられないのが、帝国皇子や王国貴族という生き物だ。


「こちらが先日お話ししたもう一人の同行者ですよ」


 とサラが言って、銀色の鎧を着た赤髪の少女が前に出て俺に一礼する。


「初めまして御意を得ます、ラスター殿下。私はサンドラ様のご友誼をもってこの場にはせ参じましたカレン・キャテ・コルマールと申します」


「キャテ?」


 彼女の名乗りを聞いて、俺は引っかかりを覚えたという顔をした。


 キャテというのが王国において聖騎士に与えられる称号だと知っている、ということのアピールでもある。


「若輩ながら先日称号を賜りました。サンドラ様のお引き立てのおかげです」


 とカレンは笑顔で言った。

 コルマールは家の格的にはクライスター伯爵家よりも下の男爵だったかな。


 聖騎士は名誉ある称号で、一代ながら貴族にも列せられるし、さらに功績を積めば永代貴族になるチャンスもある。


 家督を継げる可能性がない下級貴族の子弟たちが最も目標にする地位であり、十六歳で到達したカレンは相当な実力者ということだ。


 実際原作でも序盤は強力なお助けキャラという立ち位置で、パーティの運用や育成次第では最後まで第一線に居座り続けた。

 

 今のうちに知り合えたのは俺にとってもかなり大きい。

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