第二章
第102話「現実的なプラン」
「ダンジョン」
サラがこっちを見つめながらつぶやいたので、彼女に視線を移しながらしゃべる。
「その気になって調べたらすぐにわかると思うから言ってしまうが、俺たちは帝国でダンジョンにもぐってレベル上げをしていたんだよ」
「帝国では十二歳でダンジョンにもぐれるんですか!?」
俺の言葉に反応したのはティアで、大きく見開かれた目と性格に反してそうな声量で、その驚きっぷりがうかがえた。
「ほんとは厳しいはずだけど、俺は腐っても皇子だからな。みんな見て見ぬふりだよ。陛下だって己を高めるためならって黙認なさったみたいだし」
さすがに俺がダンジョン探索をやっていると誰も知らないなんてありえない。
そこまで無能ぞろいだったら、もっと楽な立ち回りをしている。
「な、なるほど……みぶん、権力……」
とティアが何やら複雑そうな表情でつぶやく。
彼女の生い立ちを考えれば無理もない反応だと思うが、ここは不思議そうにしておこう。
「お待たせしました」
ジーナが戻ってきて、ティア、サラ、俺、自分の順番にお茶を置く。
こういう時、客から出すのがセオリーだしな。
「ねえ、サンドラ」
ティアが愛称じゃなく親友の名前を呼ぶ。
「……私の一存じゃ決められないわよ」
サラはそっと息を吐いてから彼女に答える。
彼女はあくまでも伯爵家令嬢にすぎず、権力は自分で握っていないということだろう。
「う、うん」
ティアはしゅんとしてこっちをちらりと見る。
「帝国に来てくれるなら何とかできるかもしれないが、帝国に来てくれるのか?」
と俺は彼女に聞いた。
帝国は彼女のことは知らないはずだし、クライスター伯爵家令嬢と接点を持ったくらいじゃ何も言ってこないだろう。
「え、えっと……」
「無理ですね」
ティアが迷いを浮かべたタイミングで、サラがバッサリと切り捨てる。
「サラ……」
今度は愛称で呼びかけた。
「帝国に行くのがダメと言うのではなく、国を出るのが難しいでしょうね」
サラは「わかるでしょう?」と言いたそうに彼女を見つめる。
「……そう、だね」
ティアはあきらめたように肩を落とす。
「何やら訳ありみたいだな。国内のダンジョンに入るようそちらで手配してもらい、俺たちが同行するという形ならこっちはかまわないんだが」
一応譲歩できる点を挙げておく。
俺が初期から予定していたアイデアであり、おそらくティアが選べる最も現実的なプランだと思う。
「……できるのかな、サラ?」
とティアは隣に座る親友に問いかける。
「難しいと思いますよ。すくなくとも私たち四人だけというのは現実的ではないかと」
サラは感情を宿していない表情で答えた。
何か変だな? 図書館でティアと話した時は二人でももぐれそうな口ぶりだったんだが?
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