第99話「ラスターの説明」

「どうやって逃げてきたんだ!?」


「どこから逃げてきた!?」


 駆け寄ってきたのは教師以外にも、金属鎧で武装した集団、騎士団たちだった。

 彼らは心なしか血走った眼を向けながら継ぎ早に質問をくり出す。


 みんなしどろもどろになっている。

 きちんと説明できるのは俺一人だけだろうが、この状況でしゃしゃり出たくないなぁ。


 と思っているものの、みんなが助けを求めるようにちらちらこっちを見ている。

 サラにいたっては「さっさと何とかしろ」と言わんばかりだ。


「あ、もしかしてラスター皇子ですか?」


 騎士はすこし気まずそうな顔になる。

 彼らと俺の関係は複雑だろうからな。

 

 王都に住み、学園に通っている俺は彼らにとって護衛対象だ。

 そして外交などで何かあった場合は拘束すべき相手でもある。


 俺も拉致されたという情報は伝わっていたんだな。


「ああ。まあ帝国から持って来たマジックアイテムの効果のおかげだ。詳細は俺の一存で話していいかわからないから、勘弁してもらいたい」


 と答える。


 要するに帝国と王国の微妙な関係を盾により、具体的な内容については教えないというのが俺の結論だ。


 王国関係者だって、俺やジーナには知られたくない情報くらいいくらでもあるだろう。


 だから俺がどうやったのか、王国関係者だって踏み込めないというわけだ。

 すくなくとも一介の騎士じゃできないに違いない。


「帝国から機密をしゃべるなと言われるかもしれないからな」


「は、はい。失礼しました」


 騎士たちのみならず、一緒に逃げてきた仲間たちも表情が変わる。

 帝国の国家機密ってやばそうに聞こえるもんな。


 こうやって脅しておけば聞かれることはなくなるだろう。


 もっとも帝国本国からは「そんなの知らないぞ。お前何やった?」とツッコミが来る可能性は想定しておかないとな。


 他の兄はともかく、皇太子や皇帝からの質問には答えないわけにはいかない。

 面倒くさいけど、コツコツやっていこう。


「いずれにせよ、みんなが無事でよかったです」


 騎士の偉い人らしい男がごほんと咳ばらいをして言う。


 とりつくろったのは明らかだったが、俺だって話題を終えてほしかったので乗っかる。


「上手く助けられてよかった」


 俺も営業スマイルで答えた。


「できれば奴らのアジトがどこなのか、分かればいいのですが」


 と騎士は遠慮がちに言う。 

 俺も同感だ。


 暁団なんて奴らさっさと壊滅させてほしいが、問題がある。


「転移アイテムで拉致され、転移アイテムで逃げてきたからな。どこだったのかわからない」


 と返事をすると「ですよね」と反応を返された。

 本当は羽のペンダントを使えば行けるはずだが、それを教えるのはまずい。


 くり返し使ったら気づかれてしまうリスクが高くなるからな。

 暁団に逃げられるリスクとどっちをとるかを考えた末、黙っておくことにする。


 暁団よりも王国や帝国のほうがずっと厄介だからだ。

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