第100話 「ことの顛末」

 結局、暁団は無事に騎士団が発見して殲滅したらしい。


 予想していなかったイベントはこれで解決したわけだが、もしかしたらまずいことをしたかもしれないと、今になって後悔している。


「ラスター様、おはようございます」


「ラスター様、今日も素敵ですね」


 まず一年はみんな俺の顔と名前を覚え、多くの生徒が俺を見るやいなや笑顔であいさつしてくるようになったのが大きな変化だ。


 男子は友好的、女子生徒は好意的な笑みと言える。 

「帝国の皇子で、機転でみんなの危機を救った英雄」になっちゃったからなぁ。


 特に女子からの視線が熱くなったが、今はあまりうれしくない。

 俺の将来を思えば女子にモテるようになって喜んでいる場合じゃないのだ。


 それが硬派やストイックだと評価されて、人気がさらにあがったのは皮肉と言うべきだろうか。


「おはようございます、ラスター様」


 先ほどの女子たちとは違って、ちょっと遠慮がちな声の主はティアだ。


「おはよう」


 と返事をするとホッとした顔になる。


 彼女も俺に好意を持ってくれたようだが、どちらかと言えば敬意の成分のほうが多めかもしれない。


 感覚的な話で根拠があるわけじゃないので、何がどう違いのか言葉で表現するのは難しいのだが。


 彼女から好意的に接してもらえるようになったのも大きな、うれしい誤算と言える変化だった。


 どうやって彼女と親しくなって信頼を勝ち取ればいいのか、というのが王国での重要な課題だったからな。


「おはようございます」


 ただし、チクチクする視線と感情が抑えられた声を放ってくる、サラの存在がなければだが。


 ティアが助かったことについて礼は言われたものの、俺を信用するかは別問題ってことだろう。


 まさかと思うが、ティアが俺に好意を持ったのが気に入らないだけってことはないだろう……さすがに。


「おはよう」


 ジーナはティアに対しては無反応だが、サラに対してはすこし身がまえる。

 これは何となく予想していたことだから計算違いじゃない。


 ジーナは基本的に俺に非好意的な相手にはこんな感じなのだ。


 今までは帝国内で相手は彼女よりも立場が上、場合によっては俺に火の粉が飛んでくるような相手が多かったから、態度には出さなかっただけだろう。


「ジーナ」


 とたしなめると彼女はぺこりと頭を下げる。


「サラちゃん」


 ティアもまた自分の親友を困った顔でけん制していた。


 サラはそっと息を吐くと、無表情で俺に頭を下げてティアの手をとって歩いていく。


 サラの好感度や信頼を得られなかったことは予想通りだ。


 だけど、ティアの成長の機会を奪ってしまったのは、もしかしてまずかったんじゃないか?


 ほんのちょっとそんな予感がしはじめていた。

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