第95話「ワープストーンは迷惑なマジックアイテム」

 教師たちが煙にうろたえる間、覆面たちは懐からそれぞれ青い石を取り出して光らせる。


 周囲にいる人間六人まで転移させることができるマジックアイテム「ワープストーン」だろう。


 性能のわりに入手手段は多く、値段もそこまで高くなかったりする。

 バランスどうなってんの? と思ったプレイヤーは俺だけじゃないはずだ。


 だから暁団を名乗るこいつらが何個も持てる状況になってしまったのだろう。


 もっともあくまでも「周囲にいる人間限定」だから精霊や幻獣、モンスターは無理だし、仲間だけを選ぶことはできないっていうマイナス面もある。


 ……ワープストーンの値段が高くなかったのは、このマイナス面のせいかもしれないが。


 任意の対象を選べる、もしくは味方しか対象にならないマジックアイテムは高額だったので。


 暁団とやらに連れてこられたのはうす暗い場所で、離れたところにある燭台や天井のランプが光源になっている。


 うす暗いのは光があまり明るくないせいだが、おそらくわざとだろう。

 俺たちに素顔を見られたくないという意識があっても変じゃない。


 微妙に使い勝手が悪いワープストーンだが、どうやらうっかり教師や関係ない人間を一緒に連れてきたという間抜けな展開は起こっていなかった。


 ワープストーンの効果を知っている人間が計算して、彼らに指示を出したのか。

 それとも参謀でもいるんだろうか。


 興味深いのはたしかなんだが、今はそれどころじゃないな。


 俺の適当な目算だけでも覆面は四十人くらいはいそうだし、俺とジーナの二人だけで制圧できるかわからない。

 

 単に制圧するだけならともかく、一緒に連れて来られた連中に犠牲を出さないという条件をつけ加えるなら、一気にムリゲーと化す。


 ハイメイジの俺にそんな柔軟な立ち回りとかできるはずがない。

 もっと上のクラス、レベル50でなれるウォーロックにならないとな。


「とりあえずお前らにはしばらくここで暮らしてもらおう」


 と野太い声の主が呆然としている俺たちに声をかける。


「私たちをどうするつもりなんですか?」

 

 サラが落ち着いた様子で、凛といた声で疑問を投げた。

 最悪自分とティアの二人だけで助かろうと考えているだろう。


 原作でも主人公の親友で側近の彼・彼女は、いざという時は犠牲を覚悟できる冷徹さを備えていた。


「はっ。どうなるかはてめえらの親兄弟次第だなぁ? まあ帝国は敵に回したら面倒くさそうだから、適当なところでお引き取り願いたいがよ」


 なんて言ったのでおやっと思う。

 だったら俺とジーナは最初から対象外にすればよかっただけなんだが。

 

 何か裏の事情があるのだろうか。

 それとも俺たちに邪神教徒だとまだバレたくはないということなのか?


 だとしたら厄介だな……何でわかったのか、説明を考えておかないと面倒なことになる。

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