第94話「集められた子弟たち」

「まあいいだろう」


 野太い声の主は意外とあっさりと受け入れる。


 ちらりとこっちを見たのは、俺がいるかぎり抑え込むことは可能だと判断したのか。


 彼以外の覆面は大した障害とは思ってなさそうだ。


 彼らにしてみればしょせん十二歳のおつきだからなぁ……相手のレベルがわかる魔法やスキルなんて、原作にはなかったし。


 完全にアイテムが頼りになる不便なゲームだったのだが、今回のような事態にかぎって言えばありがたいかもしれない。


 こっちの手札を知られるリスクがないってことなんだから。

 しばらくは暁団とやらの出方をうかがうことにしよう。


「そうだな~」


 野太い声の主はわざとらしく声をあげ、ぐるっと一年たちの顔を見回す。


「お前とお前とお前と」


 彼が指名した人間のところには他の覆面たちがやってきて、壇上に連行される。

 その中にはティアも入っていたし、サラも入っていた。


 適当に見せかけて本当は狙って集めているのだろうな。


 全員がそうだと断言できる自信はないが、魔力が高そうな奴を優先的に狙っている可能性は高い。


 野太い声の主は感情を抑えるのが上手いから、俺じゃ判断は無理だな。


「以上、二十人か。たっぷりだな」


 野太い声の主は冗談のつもりだったらしいが、部下たちは下品な笑い声を立てる。

 

 たしかに貴族かそれに近いような立場の子どもが二十名だと、身代金目的の誘拐なら上出来だと解釈は可能だ。


 保護者が子どもの安全最優先で、支払いに応じるつもりがあるのならだが。

 

「逃げられるとでも思っているのか?」


 男性教師の一人が言った。


「はっ」


 野太い声の主は嘲笑を返す。


「捕まえてみろよ」


 と彼が言うと部下の一人が懐から何かを取り出して、床に叩きつける。

 白い煙が勢いよく吹き出す。


「あるじ様」


 ジーナがあわてて俺をかばい口を抑えるが、おそらくただの煙幕だろう。


 何らかの効果のあるガスをまくなら、最初からそうしたほうが早くて楽だったはずだ。


 声や顔や体型、人数などもわかりにくかっただろう。

 そんなメリットを全部つぶしてまでここまで温存する理由があるとは思えない。


 野太い声の主は俺を見ておやっという顔をする。

 どうやら見直されてしまったらしいが、こいつに評価されてもなと再び思う。


 あんまり評価されてしまうといざという時、警戒されてしまうかもしれない。

 内心ため息をついて視線をずらすと、ティアがサラにかばわれている。


 サラならこの段階である程度治療系の魔法を会得していてもおかしくないし、彼女がそばについているならティアは守られるだろう。


 サラとティアを引き離そうとしないあたり、やっぱりティアの過去イベントの一つなんだろう。


 俺が予定よりもずっと早く王国入りしたせいで巻き込まれたんだな。

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