第89話「言葉での説明が難しいもの」
中等部に通うことになって二日目、校門のところでジョットとばったり出くわしたので彼に話しかける。
「おはようジョット」
「おはようラスター」
俺たちはお互いに従者を連れているし、彼らは背景化していて会話は生まれない。
いや、一瞬だけジーナと視線を交わしあったようだ。
あいさつをしたと言うよりは探りあったといった表現がしっくりくる感じ。
もちろん俺の感じ方が間違っているかもしれないが、宮廷でもこういうシーンを見た気がする。
彼らなりの流儀でもあるんだろうと解釈していた。
「そう言えばカリキュラムのことでわからないことがあったんだ。よかったら教えてもらえないかな」
とジョットに肩を並べながら話しかける。
「もちろんかまわないよ。どれのことだろうか?」
彼はいやみのない社交スマイルを浮かべながら反応した。
「クラッチボールというやつだよ。ニュアンス的に球技の一種なんだと思うが」
「ああ。それか」
ジョットはなるほどという顔になる。
クラッチボール、設定ではたしか存在していたが、原作では出番がなかったんだよな。
たしか王国のちょい役の一人が名手だと書かれていたものの、そのキャラクターの出番はほとんどなく……。
まるで前世の俺だなと言いたいところだが、何らかの特技がある時点で俺よりはマシか。
「クラッチボールは魔力を込めたボールを使った球技だよ。簡単に言うとね」
「ふうん?」
ジョットの説明は短すぎてピンとこない。
そりゃこっちの世界の球技なんだから、魔法や魔力は使っても変じゃないだろうよというのが正直な感想だ。
「うーん、言葉で説明するのは思ったより難しいな。実物を見てもらったほうが、おそらくわかりやすいだろう」
「たしかにそうかもしれないな」
スポーツなんて言われてみれば文章だけで理解するのは難しい。
実際のプレーを見て雰囲気をつかむほうが手っ取り早いのは事実だ。
「もしよければ今日の放課後にでも案内しようか? どこでやっているのか、僕は知っているから」
「ありがとう。お願いできるかな」
渡りに船だという顔をしてジョットの厚意を受け取る。
「そう言えば今日は全校集会があるって知ってるかな?」
「ああ、そう言えば」
彼の問いにゆっくり首を縦に振った。
こっちの世界でもある、別になくてもいいイベントだ。
「鞄を置いたらさっそく向かわないとね」
彼の言う通りだし、どこでやるのか建物の位置を覚えていないので後をついていこう。
なるほど、俺の教室から体育館まではそんなに離れてないな。
「並び方は適当でいいのか?」
「ああ、かまわないよ」
ジョットがそう答えたので、脇にジーナを従えつつ集会がはじまるのを待つ。
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