第83話「よろしく」

 一時間目の共通言語学の授業が終わった休み時間、さっそく俺とジーナはクラスメートに囲まれる。


 彼らの瞳には好奇心が満ちていて、動物園のパンダにでもなったような気分になった。


「もしかして帝国の皇族ですか?」


 と眼鏡をかけた茶髪の少年が聞いてくる。


「ああ。そうだよ。みんなはこの国の貴族かな?」


「基本的にはそうですが、富豪の子や連合王国出身もいますよ」


 と眼鏡をかけた少年が答えた。


「へえそうなのか」


 高等部だと一部平民や他国の貴族を受け入れていると知っていたが、中等部でも同じなのか。

 

 なんて思っている間にジーナが俺の背後に回る。

 何か指示があればすぐに動けるようにという考えからだろう。


 彼女に質問したそうだった女子が、少し残念そうな顔になっている。

 俺を飛び越えて彼女に話しかけるのは無礼な行為になってしまう。


 かといって俺に話しかけたいかというと、別にそうでもないらしい。

 帝国の皇子なんてどう扱っていいのかわからないってところだろうか。


 俺だって正直彼女たちの立場だったら、遠巻きにして見ているだけが関の山だっただろうな。


 触らぬ神にたたりなしっていうし……こっちにも似たような表現なかったっけ?


「同じクラスで学ぶ仲間なんだから、敬語は使わなくていいよ」


 親しみやすいキャラのほうがいいだろうと計算し、苦笑気味にお願いをしてみる。


「そういうことならやめるよ。正直ちょっと意外だけど」


 眼鏡の少年はさっそく言葉遣いを変えた。

 

「帝国の皇族ってそんなイメージなのか」


 知ってるけどな。

 そしてそれが偏見じゃないってことも。


 だが、ここは知らなかったと大げさな顔をしてみるのがいいだろう。

 彼らは困惑が中心だが、中には面白そうな顔をしている奴がいる。


 この中にはおそらく高等部のサブキャラもいるはずだよな。

 今の俺みたいに途中で転校してくる奴はいないんだから。


 名乗ってもらわないと全然わからないな……むしろパッと見てすぐに気づけた原作主人公ティアと、サラが例外だと思っておくべきか。


「僕はジョット。トラフォード家の次男だ。よろしくね」


「ああ、よろしく」


 眼鏡の少年と握手を交わす。

 トラフォード家……たしか王国の伯爵家の一つだったな。


 クライスター家ほど発言力や影響力があるわけじゃないが、堅実さで定評がある一家じゃなかったか。


 原作だと印象が薄かったものの、現実になった場合の伯爵家って馬鹿にはできないだろうな。

 

 友好を示してくれるなら仲良くしておこう。

 こっちでの友好関係は多いほど将来的にありがたい。

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