第68話「留学準備」
「詳細はガイムから聞け。下がることを許す」
許可という形式の命令なので頭を下げて部屋を出る。
ドアから離れたところでふり向いて、ついてきたガイムに小声で問いかけた。
「書類か何かはあるのか?」
「用意してございます。お部屋までお持ちし、そこでご説明申し上げましょうか」
ガイムの返答にうなずく。
準備するのはジーナだし彼女のほうがおそらく記憶力もいい。
一緒に聞いてもらうのが一番いいだろう。
「それで頼む」
区画が変わったところでほっとした顔のジーナが俺を出迎えた。
ついてきたそうな表情になっているが、一歩を踏む出さない。
「かまわないだろう?」
と俺がガイムに聞く。
立場では俺のほうが上なのだが、彼は皇帝直属だから状況次第ではジーナを排除する資格がある。
「ええ。ラスター様が留学なさる際、そちらの者もお連れになるのでしょう?」
ガイムがうなずいたのでそっとジーナが俺の右脇につく。
ガイムと反対側を選んだのは作法の問題だ。
「ああ。もっとも陛下が使用人を増やしてくださるなら、ご厚意に甘えるつもりだが」
なんて俺は思ってもないことを言う。
「ジーナ以外信用していないので、近くに置くつもりはない」と思っていないという意思表示だ。
宮仕えしている者を誰も信じないとは皇子失格ではないか、と攻撃されないための政治的配慮ってやつである。
「ラスター様のお望みでしたら、おそらくあと二名は追加できると思いますが、いかがなさいますか?」
とガイムに聞かれた。
まあ帝国皇子の従者がひとりだけってぶっちゃけ帝国の面子の問題もあるからな。
原作だと完全に見放されている上に人望もなかったから、ジーナ以外の使用人はいなかったが。
いずれにせよ現状俺から帝国を突き放すのはまだ早いので、穏当な回答でいこうと思う。
「できればガイムに任せたいな。国外に行くのは初めてだし、俺一人で考えてもわからないことだらけだろう。よろしく頼む」
と言って依頼する。
これは何かあった場合、ガイムに責任をなすりつけるための措置でもあるんだが、老人は驚いたように半瞬息を飲む。
少しずつ俺ことラスターが変わりはじめていると気づいていたとしても、まさかここで全部任せてくるとは想像もしていなかったか。
だが、すぐに何でもなかった様子に戻る。
「かしこまりました。手配のためお時間をいただけますと幸いですが、よろしいでしょうか?」
質問にうなずきかけたが、肝心な点を聞いていないことに気づく。
「留学っていつから?」
「一か月後とうかがっております」
「そっか」
それならあんまり慌てなくてもいいか……皇族が外国に行くにしては突然すぎるってのが、この世界の常識だと知っているが。
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