第21話 好き?ブラコン?ふふふふ……

「色々聞きたいことはあるんだけど、とりあえず……なんで棚の鍵開いてるんだ?朝出かける時に閉めてったはずだけど」


 俺は興奮してトンカチ持ちながら暴れていたみつをなんとか押さえ込み、武器を回収するとそのまま床に座らせた。

 その蜜はと言うと

「うん、確かに閉まってたね。だから?」

 特に反省の色は見せていない。


 むしろ開き直りすら見られる態度に俺は頭を掻き、呆れる。

 しかし、いつまでも呆れたまんまでいられなかった。

「だからって、なぁ……。どうやって開けたんだ?簡単にこの棚の扉の鍵が開くはずないんだけど」

 とりあえずは事情聴取をしなければ、今後の対策が取れないと思い、質問をすることにした。

 同じく、鍵について疑問を持っていた紫月しづき

「確かに、これは簡単には開けられないわよね」

 と俺の真横に立ち、そう言う。

「だよな」

 益々ますますどうやって鍵を開けたのだろうかと考えていると、自信ありげに蜜が口を開く。

「あぁ、それはね。こっそり合鍵作ってたからね」

「なるほど合鍵。……合鍵?」

「うん、合鍵。ほら、ここに」

 ゴソゴソと制服のスカートのポッケを探り出す蜜。そして彼女が取り出したのは、小さな黒いキーケース。

 そのキーケースの中にあったのは、自転車鍵くらいの大きさで先端が丸みを帯びてる独特な形の鍵。


 まごうごとなき、俺の部屋のフィギュア棚の鍵だった。

「えっどうして!?」

 俺は驚く。と言うよりも、驚く以外の選択肢が果たしてあるのだろうか。


 しかし、蜜は止まらない。さっきので止まるわけがなかった。


 今日一日で俺は学んだ。正常な思考してる人が俺の周りにはいないのだと。

 そして蜜も例外なく、それに含まれる。


 何よりも……

「お兄ちゃんの机の引き出し下から2段目左手前隅にしまってある棚の鍵をちょちょいと拝借はいしゃくして作っただけだけど?」

 彼女の目が座っていたからだ。

「……隠し場所なんて誰にも伝えてないんだが」

 俺は怯える心を殺し何とか平然をよそおう。これが精一杯の抗いだった。


 が、それでも

「お兄ちゃんの考えてることなんて丸わかりよ」

 この妹には通じないように思われた。

 何でもかんでも、見透かされているようなそんな感じが……。

「丸わかりって、そんなわけないだろ。流石に」

 俺がそう言って虚勢を張ると、蜜の表情が笑顔へと変わった。


 その瞬間、俺は鳥肌が止まらなくなった。

 何故ならその時の蜜の笑顔は…………

「どうせこれからしーちゃんとコスプレ撮影するつもりだったんでしょ?させないよ?もう、私の気持ちをバラされてしまった以上もうしーちゃんの好きにはさせない」

 とても嗜虐的なものだったのだから。



「なんか本当にバレバレみたいよ?どうする桜夜」

 俺が固まる中、紫月は俺に指示を仰ぐが

「どうするって言われても……」

 この時の俺には何も考えられなくなっていた。


「それにね、お兄ちゃん」

 自身の優勢に気付いたであろう蜜がスクッとその場から立ち上がる。

 思わず俺は後退あとずさる。

「な、なんだ?目がちょっと怖いんだけど……」

「私がお兄ちゃんのことを好き?ブラコン?そんな言葉でまとめて欲しくない」

 小さく笑い出す蜜に俺は

「……蜜?」

 心配になり声をかける。


 蜜が笑い出したのが面白いことがあったから、というわけじゃないのは話の流れでわかった。

 いや、むしろもっと嫌な事に気がついてしまったのだ。

 だからこそ急いで止めないとと思ったが、もう遅かった。

「好き?ブラザーコンプレックス?ふふふふ……笑わせないでよ」

 徐々に笑い声が大きくなっていく。

「蜜?おーい、蜜さん……?」

 蜜の顔の前で手をブンブンと振り何とか正気に戻ってもらおうとしたがそんなものが通じるはずもなかった。

 そしてここに来てようやくことの重大性に気づいたのか

「あー……みっちゃん?もしかして」

 紫月が苦笑いをしていた。

 相変わらずなマイペース具合にツッコミを入れたくなったが、それよりも今目の前のことに手一杯だった。


 しかしその悩みも、蜜からの一言で吹き飛んだ。


「好きとかその次元なんて遥かに超えてるのよ……。私はお兄ちゃんに純血を捧げるつもりなんだから!」


 更なる悩みが降り掛かってきたのだから。



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