第9話 そして彼女は動き出す
「えっ、だって昨日の返事って言うから……てっきり告白かと」
激怒する
「はぁ!?文化祭の出し物を文芸部としてするのかしないのか、っていう話がどうしてそうなりますかねぇ!」
そう言って、呆れながらさらに激怒する。
「あー……そっちでしたか」
結果的には火に油を注いでしまったようである。
「そ・れ・に!!私が告白?よりによってへなチョコメンタルの
こめかみをリズミカルに人差し指でトントントンと叩きながら追撃する陽ちゃん。相当お怒りのようだ。
よくよく考えたら、俺に好意を持つなんてこと、陽ちゃんが俺に告白するなんてことなんてあるはずないのに。
だって陽ちゃんは
「いや、そうだよな。陽ちゃんはそんなんだったわ……。ホントすまん、なんか勝手に舞い上がってしまった」
ホント、何舞い上がってるんだか……。馬鹿かよ俺は……。
「まったく、しっかりして下さいよ……」
「いや、ホントそうだね。反省反省」
再び大きくため息をつく陽ちゃんに、俺はどことなく安心感を覚えた。
こんなダメな俺をなんだかんだで受け入れてくれてる後輩がいてくれてよかった。
「それで、出し物参加どうするんですか?9月中旬に文化祭があるとはいえ、部活側の申請そろそろだって、
2度ため息をついたことで落ち着いたのか、陽ちゃんは本題へと切り出した。
ホント、良い後輩を持ったものだ。
「あー、もうそんな時期か。うーん……どうするかなぁ。早く出さないと
「間違いなくいじけますね」
俺と陽ちゃんは文芸部顧問である梶原
メンタルが不安定で、
『 婚活上手くいかないし、いっその事こっそり生徒に手を出してできちゃった婚でもしようかなぁ』
みたいな独り言をブツブツとよく言っている、残念美人なアラサー数学教師・梶原 鈴音先生のことを。
そんな梶原先生に昨年、半強制的に入らされた文芸部だが、それでもやるからにはしっかりやりたいとは考えている。
文化祭の部活参加も例外なく。
「一応さ、出し物参加はしたいとは考えているんだよ。昨年みたく短編集で」
俺がそう言うと陽ちゃんは目を輝かせる。
「いいじゃないですか、短編集!」
単純に本好きな陽ちゃんにとっては、自分で作品を発表する機会があるのが嬉しいのだろう。
何となくで続けてる俺には分からない感覚だ。
しかし、昨年出来たことは今年できるとは限らないのである。
「やるのはいいんだけどな、1つだけ問題があるんだ」
「一体なんですか?その問題っていうのは」
俺の注意の内容が検討もつかないといった様子で首を
あぁ、そんな目をされると言い出し辛いなぁ。
キラキラした目で俺を見つめる陽ちゃんに戸惑いながらも
「人数が足らないんだよ」
俺は何とか事実を伝えた。
きっと陽ちゃんは悲しむ反応をするのだろうなぁ、そう思いながら反応を待っていると
「まぁ、私と先輩の2人しかいませんものね……」
陽ちゃんは妙に納得している様子だった。
どうやら彼女なりに何か覚悟していたものがあるのかもしれない。
…………ちょっと陽ちゃん、大人過ぎません!?反応が大人のそれなんですが!?
俺は心の中でひたすら動揺していた。少しは抵抗するのかと思っていたら、陽ちゃんがあまりにもあっさりと引き下がったのがあまりにも意外すぎたのだ。
そんな心の動揺を表に出さないように、一拍置いてから話の続きをすることにした。
「せめてあと1人か2人いればそれなりに厚みのある短編集が出来ると思うし、部費賄える分くらいはなると思うんだけどさ」
「先輩も考える時は考えるんですね。とても意外です!」
「そこは敬って欲しかったなぁ……」
本気で意外そうな顔をする陽ちゃんの反応に俺はショックを受ける。
俺、陽ちゃんになんて思われてるんだろうか。
「それで、先輩。候補はいるんですか?」
落ち込む俺の様子を気にする様子もなく、陽ちゃんは話を進める。あれ?主導権いつの間にか取られてね?
「それがなぁ、ちょっと心当たりが無いんだわなぁ」
俺はいつの間にか話の主導権を俺から奪った陽ちゃんの質問に、正直に答えた。
「なんだ、やっぱこの先輩ダメじゃん」
「色々酷くない!?」
正直に答えてこの言われようはさすがに泣いていいですか?いいですよね?泣きますよ?
「まぁとりあえず梶原先生には先輩から伝えておいて下さい。人数については……明日の部活の時にでも考えましょう」
俺が弱虫メンタルになっている横で、陽ちゃんはサクサクと話を進めていく。
「なんかごめんな?頼りない先輩で」
情けなく思った俺は、心から謝った。
が、陽ちゃんはさほど気にする様子もなく
「そういうのはいいので早く戻りましょう?時間ヤバいですよ」
項垂れている俺の顔の近くに、自身の腕時計を近づけ時間を見るよう促す。
その時計の針は中休み終了3分前を示していた。
「そうだな、俺もそろそろ自分の教室まで急いで戻らないと」
俺が頼りないのは前からだし、今更グダグダ考えても仕方ないよな。そう思い俺は無理やり自分を奮起させた。
そんな中で
「……それに先輩は先輩で、頼りになるところもほんのちょっとだけだけど、あるじゃないですか」
陽ちゃんが何やらブツブツと言っていた。
上手く聞き取れなかったが、“ 先輩は……”と言ったフレーズが聞こえたので
「なんか言ったかー!?」
俺は思わず反応した。
陽ちゃんは俺が声をかけたと同時にビクッと全身を震わせたと思いきや、
「言ってませんよ〜。そんなことよりも、私に構ってないで早く戻った方がいいですよ!」
焦った様子で自分の教室へ戻るように言う。
何故か顔を合わせようとしないが時間も時間だったため
「そうだった。そんじゃ先いくわ!」
俺は急いで自分の教室へと戻った。
「……文芸部ねぇ。いいこと聞いちゃった。ふふふふふふふ……」
ずっと、俺と陽ちゃんの会話を盗み聞いてる人がいた事に気づかずに……。
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