メモリータイトル【0001】
■■歴 ■■年 1月1日 ■■:■■
はじめに、私という存在を端的に表現するのならば思考して動く人型の戦闘兵器と表すのが適切だろう。
数十年前に突如として発生した、人類を使って増殖・進化する思考する機械。
それが、私達の始まりだ。
構造だけで見れば人間とほぼ変わらない。
骨や血管、臓器や生殖器に至るまで、限りなく人間と同じ生体機能を持つようにデザインされており、遺伝子を残すことも不可能ではないと言えば、寧ろ兵器というよりは人間と言ったほうが正しいとすら思う。
だが、それはあくまで私達の視点から物事を俯瞰した話であり――――その本質、人類の天敵との戦力。つまりは一つの戦闘単位として見た場合、私達の評価は人間から大きく逸脱する。
最初に説明したように、私達は根本的な部分で従来の人間と違う部分が存在する。
それは、人間的な性質を残しながらも体内に備え付けられた機能――――私達が『スキル』と呼ぶものであったり、四肢や身体の部位に取り付けられた制御装置であったり、眼球に表示される様々な情報の処理能力であったり。
戦闘という行為に関して、私達は人間と隔絶した能力を所有している。
スキル解除の有無や、兵装のパターンなど様々な要因によって変化するものの、少なくとも人間を相手にして敗北することはありえない。
なぜなら、やつらには人間では絶対に勝つことが出来ないからだ。
この意味が、あなたにはわかるはずよね。
だって、今こうして記録しているメモリーのロックを解除し、閲覧できているということは、あなたは少なくとも私達を効率的に運用し得る誰かなのだろうから。
人間はフェイタル・エネミーに勝てない。
ならば、それを壊すために生まれ、その能力を持つ私達を一体何と呼べばいい?
新人類? サイボーグ? アンドロイド? 異能力者?
どれも違う。
―――――人の形をした兵器だ。
私達には名前がない。
その方が人間として見なくて済むからだ。
私達には個性がない。
タイプによって画一された
身体を弄り、脳を弄り。
でも、それを望むくらいならいいだろう。
と、少しだけ思う。
私が生まれた日。
私が自我を持ち、私という性能を得たこの日は、カレンダーで言うところの最初の一日だ。
身を切るような寒さを示す視界のアラートを無視しながら、私は始まりの朝日を見て、この記録をメモリーの一番深いところに焼き付ける。
例えメモリーがどれだけ破損しようとも、この記録だけは必ず残るような位置に置いておこう。
これが、私の始まりだ。
―――――
そしてもし、これを見ているのが未来の
自分という存在を、確かに記憶してくれているのならば。
――――どうか、この先を見ずに忘れて欲しい。
私の残した記録で、次に来る私を悲しませないように。
欲を言うのなら、この記録すら壊れてしまえばいいと願う。
そこまで壊れてしまえば、残されるものもまた――――無いだろうから。
望むべく
――――
陸戦用自在戦闘ユニット【オルトロス01】よりサルベージされた記録情報について 水沢 士道 @sido_mizusawa
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