第7話 呪いと尻を触らせる宣言!

次のお客様に会う前日にミチルが僕を例の神社の境内に呼び出した。


「ねえ、思うんだけどさあ」

「どうしたの……」


不機嫌そうに、境内を箒ではいている。

会った最初はポジティブのカタマリだったのに、結構気分屋だって最近分かってきた。


「ええっとですなあ」もったいぶるミチル。


かわいいけど、面倒くさい。面倒くさいけど抱きしめたくなる。アイドルっぽい外見でしかも巫女姿は、最強反則だとしか言えない。



「子供の前でキスするってありえないよね」

「あり得ないけど、するしかないでしょ……お客様が子供なんだから」

僕はなるべく冷静に答えたつもりだ。でも、声の動揺は隠せるものではない。


「ねえ、本当は騙してんじゃないの」

「はあ、何言ってんのさ」

さすがにムカついて少し声が大きくなる。ミチルは大きい目をさらに見開いた。


「本当にエッチな気分にならないと霊が見えないの?」

「それ、何で今さら疑うの」


 ガッカリしすぎて、ため息ついてしまった。

(誰のために見たくもない霊を見てると思ってんだ)


「村上君って、池上さんのこと好きだったんでしょ」

(いきなり話題変えたな)

「まあね」既に見られてるから嘘はつけない。

「今でもそうなんでしょ」ミチルの声はちょっと尖っている。

「もう好きじゃないよ、あんな変なやつ。特技がどうかとかいって、人を馬鹿にして」


「本当に、そ、そうなの」

ミチルは玊砂利に視線を落として、ささやくように言った。

「そうだよ」

「あー良かった、へえええ、もう彼女はどうでもいいんだあ」


ミチルはいつものように無邪気に笑う。ハカマ穿いてるのにスキップしだしそうだ。それにしても意味不明な会話だ。


「そうだ、池上のデッサン付き合ってくれてありがとう」

「どーいたしまして」


空を見上げると、境内の桜の枝が視界におおいかぶさっていた。

花は大分散ってしまい、生き生きした緑の葉っぱが目立ってる。


「いつものようにタイミング見て別室であれしようよ」

僕はミチルが何も言わないので、明日の打ち合わせを始めた。

「あ、あれってのは?」

「あれは、あれだよ」

僕はキスの意味でちょっと口を右手で指差す。ミチルが顔を真っ赤にした。


「村上君の大事なキスって、最後まで私を見てくれないで霊を見ちゃうんだよね」

僕はミチルが何を言いたいのかかわからない。

「えっと、どういうこと」

「村上君、このままだとダメだよ」

「え」

「村上さんには何か呪いが掛かってるんだわ。それを解かないとやばいよ」

「呪いかあ、精神の病だったりして」僕はおどけて言った。

「病気じゃないよ。霊を見てるのは真実だもん」

 女子ってやっぱり、言うことが意味不明だよなって思う。そもそも、これは何の打ち合わせだ?


「それより、明日霊視するの、どうするかって件だけど」

「コタツがあるのよ、明日の現場は」

ミチルは気合い入れて言った。

「そうなの」コタツかあ、田舎だからなあ。暖房じゃないのか。ふむふむ。


「私、キスの代わりに村上さんにオシリを触らせてあげようと思うの」

(何いってんだこの娘は……)

いつの間にか股間が固くなってしまい……

「うわ、なんか血だらけの爺さんがこっち見てる」


頭がボーとして、砂利の上にヘタれこんでいた。

「ご、ごめえん、また霊が見えたの。多分昔ここで自殺した人かも」

「君がオシリ触らせるっていうからさあ」

葉桜の下で僕らは一週間前の花びらみたいに、頬を染めて見つめあっていた。


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