第6話 モデルになる巫女

「池上先輩って、村上先輩のこと振ったんですよねえ」と私は池上先輩のモデルとして境内で箒をもって、掃除するポーズで静止しながら答えた(結構つかれる)。


「うーん、そうなのかなあ。え、それ……気になるの」と池上先輩が、キャンバスから少し顔をあげて、ニヤニヤしながら言った。

「いや、そんなに」と私は慌てて否定する。


「村上君は、普通にいい奴だよ。信頼できる人だし。あと読書の趣味がいいよね……帝政ロシアの歴史に詳しいってちょっと悪くないよね」

「……じゃあ、何で振ったんですか」と私は思わず聞いてしまった。


「こんなにしょぼい田舎で、彼氏作ってもしょうがないかなあって思っているんだよね」と池上先輩は冷めた口調であっさりと言った。村上先輩に何の感情もないことが分って、ほっとしたというより拍子抜けって感じ。


「……」

「あら反感もった?、ミチルちゃんって結構郷土愛強そうだもんね」

「はあ、ちょっとだけですけど」と私は正直に言った。片岡のお爺さんが聞いたらがっかりするだろうなって思いながら。


「みんな学校卒業したら、出て行っちゃうような町で、恋だの愛だの言っているのって……私はちょっと違うなって思うんだよね」

「そ、そうですか、私はこの生まれ育った町が好きですけど」と私はびっくりして言った。ここまでサバサバと生まれ育った故郷を切り捨てられる人も珍しい。


「まあ、風光明媚でいいんだけど……魚は旨いし、山も川もあり、手近に温泉もあるしで」


「はあ」


「でも、夏は暑くて冬は毎日曇天か雪で、あんまり景気のいいところじゃないよね」

「うう、そ、そうかも」確かにこの町の天気はあまり人にお薦めできるものではない。


「ミチルちゃんは、こんなしょぼい神社でお年寄りに囲まれて朽ちていく人生でいいの」

「でも……折角先祖から受け継いだものですから、守っていきたいと思っていますけど」

「健気だよねえ、村上君がメロメロになるはずだわ」と池上先輩は苦笑していった。

「別に私は普通に巫女やりたいだけなんです」

「巫女の鑑だねえ」と彼女は微笑みながら、またキャンバスに向かって鉛筆を走らせ始めた。

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