第9話

「とにかく、私は彼を気持ちよくさせたいの。出させたいの。だから私は彼といるの。話は終わり」


 PAの眼が、乙女の目からこわい目に変わった。


「喋ったら、ころすから」


「はい」


 喋っても誰も信じねえよ。


「次はあなたの番」


「わたしの?」


「喋ってよ。生い立ちとか、仕事のこととか」


「ええと、そんなに何か特別なことはないですけど」


「いいから。はやく」


 断れない雰囲気。ノンアルのビールを、呷った。


巻衣桜庫かんのいさくらこ。25才です。生まれつき人の眼を見ると、その人がどういう性格気質なのか分かります」


 ここまでで一息。息継ぎ。


「CDとかで聴く音楽が好きです。顔見なくても色々妄想できるから。仕事はレーベルの新人発掘をしています。眼を見れば性格が分かるし音楽もたくさん聴いたので、売れる人間は眼と耳で分かります」


 ノンアルを再び呷る。くそっ。


「大学在学しながらバイトで2年、正式にレーベルに就職してから3年、いろんなバンドを発掘してきました。業界では歩きの巫女として伝説になっています。終わりです」


 なんて少ないんだ私の人生。漫画なら3コマぐらいの情報量しかない。文字数の多い漫画なら1コマに収まるかもしれない。

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