第8話

 15分後。彼がリビングを出ていった。


「さて、私のことね」


 PA。


「喋る前に、ひとついいかしら」


「はい」


 ビール。なんか味しねえなって思ってたら、ノンアルだった。


「私のこと喋ったら、ころすから」


「ええ」


 こわすぎる。本気の目だ。


「あと、あなたのことも聞くから。いいわね」


「は、はい」


 断れない雰囲気。

 PA。いちど立ち上がって、彼がいないかを確認しているしぐさ。戻ってきて座り直す。


「自慰依存だったの」


 彼女の顔。真っ赤になる。


「はずかしいんだけどね。その、自慰が止まらなくて」


 なに言ってんだこいつ。


「三日三晩寝ずにしてて、脱水で病院に運ばれて。あ、隣の病院なんだけど。さっきのとこの」


 いや重要な情報はそこじゃねえよ。


「そこで医者に会ってね、治してもらったの」


「は、はあ」


「もちろんいかがわしい方法じゃなくて、ちゃんとした治療でよ」


 顔が真っ赤なPA。なんかいらついてきた。顔も身体も綺麗な元モデルで、自慰狂い。くそだな。人間は平等じゃないのか。


「でね、それで」


「あっ、待ってもらっていいですか」


「なに?」


 PA。眼が、女の目じゃない。少女の目。それもいらいらを加速させた。


「さっきその、触って、ましたよね?」


「ん?」


「で、出てないとかどうとか」


「あ、ああ。それね。一回だけ、ちょっとだけ出たことがあるのよ」


「は?」


「だから、その、それが」


「ちょっと意味が分からないです」


「だから。ああもう。自慰依存だったから、なんというか、そういう持続力があるのよ私。だからつまみを細かく動かすPAが得意なの。わかる?」


 わかんねえよ。


「だから、一度やってみたの。三日三晩。休まず。飲まず食わず寝ずで。彼のを」


 PA。また顔が赤くなる。


「そしたら、最後の最後に、ほんのちょっとだけ。出たのいたいっ」


 あっしまった。つい頬をひっぱたいてしまった。


「あっごめんなさい。つい手が」


「いてて」


 PA。立ち上がろうとする私を、手で制した。


「それがうれしくて。私、ずっと自慰しかしてこなかったけど、他のひとを気持ちよくさせることがいたいいたいっ」


 あっ。人生で初めてビンタが往復した。すごい。人間の基礎的な動きなんだな往復ビンタって。


「あっごめんなさい」


「両頬がいたい」


 またしても、立ち上がろうとする私を、手で制するPA。




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