第6話

 ライヴハウスから、病院を隔てて徒歩一分。角をひとつ曲がっただけ。


 小さな一戸建て。


 PAが、ドアを開ける。


「ただいま」


 奥から、おかえりという声。


 ちょっと、絶望的な気分になった。

 このPAとボーカルのひと、付き合ってるんじゃないか。私の初恋は、数分でぶっ壊れるのか。貯めに貯めた失恋ソング集を開くときが、来たのかもしれない。


 しかし、足は動いてしまう。職業柄、脚力だけはある。どんなに気が重くても、足は前に進む。リビングらしき場所。


 PAが、ボーカルに抱きついて、キスをしている。


 ディープ。


 キスの音。思わず、耳を塞いだ。なんだこれ。恋愛と失恋って、こんな感じなのか。とてもじゃないけど耐えられない。みんなこんなのを曲にしてたの。すごすぎる。とても無理。


「ねえ。ちょっと。いつまで耳塞いでるのよ」


 耳に手を当てて、PAが喋っている。


「分かったでしょ」


「え?」


「ああもう」


 PA。服を脱ぎ始める。


「うわあもうやめて。わたし帰りますから」


「なに言ってんのよ。女の裸見たぐらいで」


 PAが、ボーカルの下を、脱がせる。見てしまった。そして。


「いくら処女だとしても、分かったでしょ。これがこの子なのよ」


 彼のもの。ちいさく、縮こまっている。PAが触っていじるけど、何も起こらないし何も出ない。


「へこむわね。これでも私、むかしモデルやってたぐらいの身体と顔なんだけどね」


 PAが、彼に服を着せ、自分も服を着直している。


「この子ね、自我が、無いのよ」

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