第5話

 ライヴハウスの裏。いかにもいかがわしい行為が横行しそうな暗がり。


「うちのボーカルに手を出そうとは、いい度胸だねあんた」


 壁に追い詰められて、じりじりと退がる。顔のすぐ横に、手。そして美人の顔。


「あんた、男性経験は」


「えっあの」


「処女か?」


 こわい。美人こわい。


 頷くしかなかった。5年間いろんなライヴハウス歩きまくってきたけど、たぶん今がいちばんこわい。というか生まれてきてから今までの25年間でいちばんこわい。


「そうか。処女か。恋愛経験は」


「なっ、ないです」


「そうなの。はじめてがボーカルか。お気の毒にね」


 美人の眼。女の目から、普通のひとの目に戻る。


「ついてきな。ボーカルのところに連れていってやる」

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