第4話

 彼が、帰ってしまった。


 サポメンのドラム。


「では、あらためて自己紹介を」


「単刀直入に言います」


 ドラムの顔。眼が、音楽家ではなく、男の目になる。


「あいつのことはあきらめてください。メディアに出したり、このライヴハウス以上のところにあいつを引きずり出したりはしないでください」


「えっ」


「伝説のスカウト、歩きの巫女に見初められたのはおれとしては最高にうれしいです。たとえ自分のことじゃないとしても。それでも、あいつだけは、だめです」


「やっぱり、普通のかたでは、なかったんですね。聴いててなんとなく思ったんです。尋常な精神状態ではないなって」


「逆です」


「逆?」


「あいつは普通のやつなんです。大抵の音楽に関わる人間の持つ、溜め込んだものとか、鬱屈した感情とか、そういうのがないんです」


「普通」


 うそつけ。あれだけのパフォーマンスの、どこが普通なんだよ。


「あいつは普通のやつだから、守ってやらないとだめなんです。だからごめんなさい。デビューとか、地上波とか、色々、勘弁していただけないでしょうか」


 ドラム。男の目でこちらをまっすぐ見て、そして、頭を下げる。


 間違ったことは言っていない。それが、眼で分かってしまう。


「さて、そこまでにしてもらおうかな」


 PA。パフォーマンス中は照明の明暗で見えなかったけど、かなりの美人だった。


「ドラムありがと。さて。あんたはこっちだ」


 羽交い締めにされて、奥に連れていかれる。一瞬だけ見えたPAの眼。女の目をしていた。


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