第73話 仮説
絶叫とともに3匹の変異種がゆっくりと動き出した。あれほど襲い掛かってきていた
「ニシダ! 」
「ッ!? ス、ギミ、ヤ……さん……? 」
3匹の変異種が動くのを呆然と見ていた俺は突然背後から肩を叩かれた。驚いてそちらを振り返るが、先ほどまであれほど動いていた身体が、今はとても重い。
「話は後だ。とりあえずまずはこれを飲め」
ゆっくりと振り向いた俺にスギミヤさんは栓を開けたポーションの瓶を差し出してきた。俺はそれを震える手で受け取る。
「あり、ありが、「いいから先に飲め」」
何故か舌がもつれ上手く話せない俺の言葉を遮って、スギミヤさんはポーションを早く飲むように促す。俺は辛うじて頷くと受け取ったポーションを一気に飲み干した。
「よし、次はこっちだ」
俺がポーションを飲み干すのを確認したスギミヤさんが次の瓶を渡してくる。中身は魔力回復用のポーションのようだ。手に持った空き瓶を渡しつつ反対の手で魔力回復ポーションを受け取るとこちらも一気に飲み干した。力の入らなかった身体にポーションが染み込んで内側から力が湧いてくるのが分かる。
「もう大丈夫です。ありがとうございました。でも、どうしてスギミヤさんがここに? 他の皆は? それに襲われてた人たちは? 」
「待て、落ち着け、順番に話す。まず他の連中は森を離脱した。この状況を急いでギルドに報告する必要があるからな。襲われてた連中は……」
スギミヤさんが言葉を切って俺より更に後方を見る。俺も振り返るとそこには…残骸と化した人の成れの果てが転がっていた。
「間に……合わなかった、のか……」
持っていた剣が手から零れ落ちる。一気に身体の力が抜け、倒れそうになったところをスギミヤさんに支えられた。
「おっと、大丈夫か? 」
「俺……助けられなかった……んです、ね……」
「しっかりしろ! 悔やむのは後だ。俺たちはまだ敵のど真ん中にいるんだぞ! 」
崩れ落ちそうになる俺にスギミヤさんが強い口調で言う。俺はその言葉にハッとする。四肢に力を込めてもう一度自分を奮い立たせる。
「すみません。取り乱しました。もう大丈夫です。それでスギミヤさんはどうしてここに? 」
そう言って支えてくれているスギミヤさんから体を離して自分で立つ。
「お前をここで死なせる訳にはいかないだろう。こちらの世界の生き物が“勇者の欠片”を取り込んだらどうなるのか忘れたのか? 」
そう言いながらスギミヤさんは腰を屈めて俺が落とした剣を拾ってくれた。
「ッ!? すみません……すっかり忘れてました……」
そう、俺たちの中にあるという“勇者の欠片”、それは俺たちがこちらの生物に殺されると殺した生物へと引き継がれる。だが、こちらの生物にはそれを受け止めるだけの器がない。取り込んだが最後、異形へと姿を変えてただ暴れまわるだけの存在になってしまうのだそうだ。
頭に血が上っていた俺はそんなことはすっかり忘れてクリーチャーの群れへ飛び込んだ。もし、そこで俺が死んでいたら……
「思い出したのならいい。とにかく今はこの状況をどうにかすることを考えろ」
スギミヤさんは俺の謝罪にそう言うと3匹の変異種へと視線を向けた。
「分かりました。とは言え今なら離脱も出来そうですが? 」
巨木から姿を表した3匹の周りに
「いや、あれはここで仕留める」
「なっ!? そんな無茶ですッ! 強さは分かりませんが危険過ぎますッ! 」
こちらを見ずに言うスギミヤさんに驚いて俺は声を上げる。
「そんなことは分かってる。だが、あれは俺たちで倒さないとダメなんだ」
「何故です? 一旦街に戻って態勢を立て直すべきです! 」
「本来なら、な」
俺の意見にスギミヤさんは何か含みのある言い方で返してくる。
「何があるんですか? 」
俺はそのただならぬ様子に聞き返す。
「恐らくだが奴らは欠片を取り込んでいる」
「まさかっ!? 」
俺は彼の言葉に驚いて変異種へと視線を向け直す。集まった
「根拠は……何か根拠はあるんですか? 」
「そもそもおかしいと思わないか? 普通なら1匹でも生まれることが珍しい変異種が3匹も生まれている。その上、3匹が争うことなく共存しているんだ」
「ですが暴走してる様子はないですよ? 」
確かに3匹は共存しているようだが、元々
「それなんだが……3匹それぞれが欠片を
「どういうことですか? 」
「つまり3匹で1人の勇者候補を食った。そして、勇者候補の中にあった欠片は3匹にそれぞれ分割して吸収された。欠片が分割されたことにより暴走が起きなかった、そう考えれば辻褄が合わないか? 」
「じゃ、じゃあどうして
俺はスギミヤさんの仮説を必死に否定する。だが、心のどこかではその仮説が正しい様な気がしていた。
「そこまでは分からん。ただ、縄張りを広げた結果なのか、それとも何か目的があるのか……仮説が間違っていたとしても俺たちが奴らを倒すことに問題はないはずだ。むしろ仮説が当たっていて俺たち以外の人間やクリーチャーが奴らを倒してしまうことのほうがまずいと思わないか? 」
俺の抵抗にスギミヤさんは淡々と返す。確かに仮説が当たっていた場合のリスクはデカい。その上、最悪は欠片が失われてしまうことも考えられる。
「……分かりました。確かにスギミヤさんの言うとおり欠片を取り込んでいた場合のことを考えれば俺たちが倒すべきですね。ここで奴らを倒しましょう! 」
そして、俺たちが改めて武器を構え直したとき、中央にいる変異種の中でも一回り大きな個体と目が合った気がした。
「グギャギゴォォォォォォ!!! 」
そいつが咆哮した瞬間、集まっていた
「スギミヤさん」
「ああ、ラウンド2の始まりらしい」
俺たちはお互いに頷き合うと迫ってくる
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