第33話 事後処理

 誘拐騒ぎから4日、俺たちはまだバルビエーリの宿屋にいた。


 昨日は朝方宿に戻るとそのままベッドに倒れ込むようにして眠った。夕方、危うく寝坊しそうになりながら詰所に向かうと衛兵長にブルノ都市長から改めて礼をしたいのでバルビエーリに残っていて欲しい、という伝言を預かっていると聞いた。


 先を急ぎたかったが今回の騒動にはかなりの部分関わってしまっていたので断る訳にもいかずバルビエーリに留まることになった。


 この4日は今までの反省からエリーゼちゃんに積極的に街に遊びに行ってもらった。ちょうど都市長の娘のレティシア嬢が毎日のようにお付の人と宿にやってきたので一緒に遊んでもらうようにお願いした。


 あのときは暗くて分からなかったが、レティシア嬢はブルノ都市長と同じ茶色の髪をした女の子だった。エリーゼちゃんと同じ12歳だそうだが、貴族ではないとはいえ都市長の娘だけあってどこか品のある子だった。


 くりくりした目を潤ませながら毎回「ノブヒト様も一緒に行きましょう! 」と誘われて困った。会う度に別れ際にしたように俺の手を掴んで遊びに誘ったり、「お母様も是非直接お礼を言いたいそうなのでお食事にいらしてください! 」と熱心に誘われている。


 俺としては恐らく吊り橋効果じゃないかと思うのだがイリスやイリスを勧めてくるときのソフィアさんと同じ匂いを感じる。


 そんなレティシア嬢の様子をこれまた毎回エリーゼちゃんが『興味津々! 』といった様子で目をキラキラさせて見ており、俺は(恋に憧れるお歳頃なんだろうか? )などと現実逃避していた。


 さて、そうして毎日レティシア嬢に誘われはするものの、俺は俺で毎日衛兵詰所に行っては事情聴取のようなものや状況の説明を受けていた。


 同時に強制捜査を受けた洋館の持ち主は捕縛された。そこから芋ずる式に商人ギルドのギジェルモ副会長とサルガドの奴隷商オスバルドをはじめ、副会長の派閥だった商人が何人も捕縛されバルビエーリはちょっとした混乱の中にあった。


 当初は否認していたギジェルモも派閥の商人から不正の証拠が出始めると関与を認める証言を始めた。


 彼とオスバルドの証言によると、彼らはサルガドの首長の指示で実家と組んでバルビエーリの商人ギルドを乗っ取ってゆくゆくはバルビエーリそのものを手に入れることを画策していたそうだ。


 最初にギジェルモが実家の財力にものを言わせて商人たちに金を貸し、その弱みに付け込んで商人ギルドを掌握、オスバルドはサルガドにバルビエーリから奴隷を送りつつ現在の都市政府への不信感を煽る役割を担っていたそうだ。


 思った以上に大きな陰謀が進行していたことにブルノ都市長はサルガドの首長への抗議と都市連合会議への告発を予定しているそうだ。だが、衛兵長の話では「恐らくサルガドの首長は『跡継ぎでもない商会の三男と一商人のしたことで自分は関係ない』と主張するだろう」とのことだった。


 実際、多少都市連合内で政治的な発言権を失うことになるだろうが、それ以外でサルガドの首長に大きなダメージは与えられないそうだ。寧ろ今こうして都市や商人ギルドで混乱が起きているバルビエーリの方がダメージは大きいだろうと言っていた。


 そういった事情もあって、都市長自身が事後処理に追われているので俺たちは未だ彼に会えずにいた。



 あの日解放された人たちは名前と所在の確認を済ませた後、後日改めて事情を聞くとして一先ずそれぞれの家に帰された。彼らの殆どが連邦からの避難民の女性や子供たちで、オスバルドから「仕事を紹介する」と騙されたか攫われたかのどちらかだった。


 避難民を狙ったのはやはりバルビエーリの市民よりも騒ぎになりにくいから、といった理由でレティシア嬢を攫ったのは完全な誤算、雇った冒険者崩れの暴走だったようだ。


 こうして捕縛された者たちはその後、主犯のギジェルモとオスバルドは処刑、ギジェルモの派閥の商人たちや冒険者崩れたちは関わった不正の内容や状況により、犯罪者奴隷として売られたり、過酷な現場で強制労働に従事させられる者、商会の取り潰しや追放処分を受けることになるそうだ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る